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霊長類ヒト科アゲアシトリ属ジュウバコツツキ目の妄想多め日録

祖父とゴシップ

わたしは父方の祖父を知らない。父自身も、彼が三歳のときに亡くなったという彼の父を、知っているとはいいがたいのだろうと、彼がいわゆる「父親モード」というハビトゥスを身につけていないことから、思う。

それはおいといて。祖父は血圧が高い人物だったと言うが、我が家の成員の血圧はデフォルトで低く、ただひとり、弟だけが、子どもの頃から妙に血圧が高い。いかんいかん、また脱線しそうになってしまった。話を元に戻すと、祖父・Iのその高血圧が、彼を死に至らしめた、という話である。

戦争中、祖父は地方の帝大で化学の教授をしていた。そのために徴兵されなかったのであるが、キリスト教徒としていろいろと内心忸怩たる思いを抱えての研究生活であったと思う。そんなさなか、彼の親友が、新聞にやってもいない悪事のかどで糾弾された。祖父は、その記事を自宅で読んで、憤怒に燃えながら朝食を済ませ、憤怒に燃えながら研究室にいつもどおり出勤し、そこで亡くなったのである。

そんな祖父の姿を、わたしは着物姿の遺影でしか知らない。もしかすると、白衣かなにか着た写真を見たことがあるのかもしれないが、その顔はおぼろである。それは、祖母と父の顔が瓜二つであることも、少しは関係していると思っている。ちなみに、わたしは父と瓜二つ、血圧の高い弟なぞは、父のホムンクルスであるかのように、よく似ている。ただし、血圧以外は。