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霊長類ヒト科アゲアシトリ属ジュウバコツツキ目の妄想多め日録

祖父と着せ替え人形

終戦後、ただちに研究員として世界各地を出張する生活に入ってしまった祖父は、しかし、長女であるわたしの母に、たくさんの新しいおもちゃや、綺麗な絵本を贈った。その中で、今も自宅にある着せ替え人形は、髪の毛用のカーラーまでついて、傾けると目をつむる仕様。おそらくアメリカ製なのだろうな、と思う。

母は、「モノばっかりもらっても全然うれしくなかった」なんて言っていたけれど、祖父の不器用な愛情は、ちゃんとわかっていたんだろうと思う。でなければ、人形の箱までとっておかないでしょう。

さて、母が成長して結婚し、わたしが生まれてからも、祖父は仕事で海外によく行った。そして、その地その地でのオリジナルなおみやげを買っては贈ってくれた。オーストラリアでは、いまや保護条約で作れない、コアラの毛皮を使ったコアラぬいぐるみを。南米では、リャマのぬいぐるみに毛織物の現地紋様の肩掛けバッグを。イスラエルでは踊り子さんがつけるようなおおぶりなトルコ石のネックレスを。

しかし、そんな祖父も国交回復直後の中国では、オリジナルなおみやげを買うのに苦労したようだ。なにしろどこにでも政府のお目付役がついてきて、自由に買い物ができなかったというのだ。で、中国のおみやげは、ペニンシュラホテルのチョコレートのほかは、中華美人しおり、白檀(ふうの香りをつけられた)扇子、香水せっけんなどだった。

新奇なものが好きな祖父としては、選びがいのないおみやげだったろうと思う。