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霊長類ヒト科アゲアシトリ属ジュウバコツツキ目の妄想多め日録

特別講演「タシルンポ僧院とパンチェン・ラマについて」@新宿文化センター・小ホール

講師のひとりである若いお坊さん・ロプサン・ドルジェ師の声が震えたかと思うと、彼の右目から涙がつっ、と流れ落ちた。

質疑応答で、「どのように亡命してきたのか」に続き「亡命してきていちばん感激したこと、実感したことは何か」という質問に答えている最中だった。

亡命する契機となった出来事、川を渡ったら寒さで川底の石が靴に凍ってくっついてきたこと、そして、「亡命してきてしばらくは、中国国内では『どこに逃げてもすぐ我々が捕まえる。我々は中国以外でも権力を掌握している』と脅されていたので、昼間は出歩くことが出来なかった。でも、今はインドは自由な国だということを実感していて、亡命チベット人は自由に楽しく暮らしている」と、話したあと、「わたしは中国や中国人をきらいだとか思ったことは今まで一度もありません。なのに、なぜ中国政府はチベット人にあんな酷いことをするのでしょう」と話しているときだった。1990年代初めに、16歳でヒマラヤを越えて亡命してきた彼の、チベット本土のチベット人たちへの心配が迸り出たのだと思う。

自分自身が辛かった話のときではなく、チベットに残された人々への思いで、堪え切れずに泣いてしまうお坊さん。それはわたしにとって、決して長くない今日までのチベット・サポートの時間のなかで、いちばん堪えた一瞬だった。会場のチベット人の方たちにとっては、もっと心揺り動かされた一瞬だったと思う。

とはいえ、その後すぐ「感情的になってしまってすみません。皆様のお心を惑わせたことを申し訳なく思います」と言って、平静な顔に戻ろうとしていた。一瞬、「そんなこと、謝らなくてもいいのに」と思ったのだが、その言葉は彼の言葉と涙に感応して泣いてしまった、会場のチベット人のためのものだったのだろう、と気付いた。涙が怒りに変わってしまわないように、聖職者としてフォローされたのではないだろうか。

なお、ロプサン・ドルジェ師とともに講演された石濱裕美子先生のブログ*1に、この講演に関するエントリがあります。