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『チベットチベット』@UPLINK

この映画、『チベットチベット』*1はなぜかずっと見そびれていて、書籍版『チベット チベット』が出版される記念のリバイバル上映でようやく見ることができた。しかし、リバイバル上映といっても、この映画は世に出てから今まで、感銘を受けたひとたちによってあちこちで上映会が行われつづけているので、単に東京の商業映画館でかかったのが久しぶりというだけにすぎないのだけれど。


チベット チベット

チベット チベット



ちなみに7/3(金)の15:00の回が最終で、連日15:00にUPLINKで上映しています。7/5(日)15:00には、書籍版『チベットチベット』の発売記念上映もあるとのこと。監督のお話が聞けるかもしれませんね。



で、映画はとてもよかった。いや、期待していた以上によかった! 日本の平和ボケ教育を受けてきた青年が、つまり自分とそう変わらない背景の人物が、世界旅行中にひょんなことからダライ・ラマ14世の写真を目にし、インドのチベット亡命政府のある地域に行ってはじめてチベット問題を知る、というドキュメンタリーなので、チベット問題の入門編としてわかりやすい。去年の3月から積極的にチベット問題にかかわろうとしてきた身としては、とても感情移入しやすかった。


映画は、いろいろなシーンでハッとさせられる。


廃墟のお寺へ監督がチベット人の少年に案内されて行くのだが、この廃寺は『風の馬』にも登場したところ。『チベットチベット』が'97年撮影、『風の馬』が'98年撮影ということ、また『チベットチベット』で監督を案内した少年の顔が安全のためにボカシを入れられていることを考えると、このお寺はラサのチベット人にとって、壊されて廃墟になっても大事なところなのだろうな、と思ったり、ダライ・ラマの「世界人類が幸せになるには、みんなが世界的責任を持つ必要があります」という言葉に、ああ、それは宮沢賢治が作品の中で言っていたことだよなあ、と思ったり。


ほかに、ポタラ宮の見える広場で、子どものためのお猿電車のような機関車型の乗り物が子どもを乗せてぐるぐる回るシーンが何度も繰り返され、次第にスローモーションになり、そのスロー度合いが進んでいくと、1人ひとりの座席の前に、おもちゃの機関銃がつかまるためのバーとして据え付けられているのがわかったり、流しの少年が歌う歌の旋律と歌詞が、それが撮影されてから10年後、モーリー・ロバートソンが『チベトロニカ』プロジェクトでチベットを取材した際に記録された流しの少女*2が歌う歌のそれと驚くほど似通っていること、この暗喩に満ちた歌が歌い継がれていることにもはっとさせられる(次の動画の6:40ごろからの歌です)。



そしてまた、ダライ・ラマが亡命してきたお坊さんたちに「果物を食べる時には悪くなっていないか確かめなさい。インドはチベットとは違って暑いんだから」と言うところなどで涙ぐんでしまう。そもそも前日に、久々に会った大学時代の仲間に貸して帰るつもりだった『ヒマラヤを越える子供たち Escape over the Himalayas [DVD]』を、ひとりの計らいでみんなで見たにも関わらず(しかも自分は5回目くらいに見るのに)泣いてしまい、この日、映画の前の予告でこの7月にDVDの再発が決まった『クンドゥン』が流れて、うっと来てしまっていたので、この週末は涙腺がゆるかったのかもしれない。『クンドゥン』は『セブン・イヤーズ・チベット』と違って派手さはなく、素人の亡命チベット人ばかりが出てくるのだが、そこがまた辛いのだ。 と、書きつつも、DVDの予約はすでにしてあるのだが。


クンドゥン (HDニューマスター版) [DVD]

クンドゥン (HDニューマスター版) [DVD]



さて、この日の上映後は、思いがけず監督からのあいさつがあり、映画編集の際のこぼれ話や、完成してから上映会が各地に広がって行った様子などのお話を聞くことができた。また、書籍版『チベットチベット』も販売されていて、買ったそれにサインをいただくこともでき、なんだか一粒で何度も美味しい感じでした。

*1:http://tibettibet.jp/

*2:このページの下のほうの三つ編みお下げの少女>http://www.webdice.jp/dice/detail/1360/