世界バレエフェスAプロ
コチェトワとシムキンの「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」で始まったのですが、最初から凄い。飛ばしすぎ。次の「くるみ割り人形」のピクニックはそんなにぐっと来ない。が、次のヌニェスとソアレスの「海賊」、タマラ・ロホがソロで踊る「エラ・エス・アグア」がまた凄い。サレンコとコンヴァリーナの「くるみ割り人形」で一息ついて、アリーナ・コジョカルとコボーの「コッペリア」は、「やっぱりコジョカルは凄い…」とため息と唸り声が回りから聞こえる凄いステージ。
ここで1/3が終わったのですが、なんか変な汗をかいてるわたしたち。家族は「ギエム以外のダンサー興味ない」とか言ってたのが、すでに脳内麻薬物質が出すぎてアホの子になりかけ。
第二部は上野水香とマチュー・ガニオの「ジゼル」で始まり、次が心待ちにしていたギエムとニコラの「クリティカル・マス」。コレオグラファーは例のラッセル・マリファント、音楽もリチャード・イングリッシュとアンディ・カウトン。予想を超えて神経線維をがくがくと揺さぶられるようなステージ。 3〜4メートル四方に四角く照らされた領域の、奥2×1メートルくらいの部分だけで踊りつづける、ラフなファッション、ラフな髪型、裸足のふたり。類似の振り付けを少しずつ変えて何度も繰り返す手法は同じながら、しかし、そのダンスの破壊力は強力で、時空間がどんどん歪んでいくし、バレエのコモンセンスや文法も吹っ飛んでしまう。完全に幻惑される。
なので、次のステージのペアはちょっと可哀想だった。「ライモンダ」をアイシュヴァルトとバランキエヴィッチが踊ったのだけど、最初のほうは、「踊ってるなあ…」くらいしか感じないくらいで、その踊りがなにを意味しているのか理解できないし、今の動きの前の動きも思い出せなかった。しかしさすがに彼らも上手く、衣装も豪華だし、生オケだし（ギエムのは打ち込み系のテクノなのでテープ再生）、だんだん正気に戻ってくる。
それからルテステュ×ジョゼ・マルティネスの「スカルラッティ・パ・ド・ドゥ」、レイエス×カレーニョの「ディアナとアクティオン」、ブシェ× ボァディンの「オテロ」。見てるときは盛んに拍手していたんだけど、ギエム・ショックの余波か「スカルラッティ〜」の記憶がない。「ディアナとアクティオン」は陽性なギリシャ神話のステージ、「オテロ」はこういう共依存っぽいふたりだとああいう悲劇になるのね… などと思わせるものでした。もちろんどちらも素晴らしい。
そして第二部終了。家族は「脳内麻薬物質が枯渇してきた。もうだめぽ」とうつろな目で言ったかと思うと、「ていうか第三部のこのラインナップおかしいでしょ（豪華すぎて）！」と逆ギレしたりしている。
その第三部はオレリー・デュポン×マニュエル・ルグリの「椿姫」。第三部もまた冒頭から凄すぎるステージで始まる。デュポンよりルグリがとにかくいい。次はコピエテルス×ジル・ロマンの「フォーブ」。ジル・ロマンのステージを生で見るのを楽しみにしていたのだけど、期待を裏切らないものでした。ステージでふたりは木箱を開けて出てくるのだけど、フォーブってケーキの中に入っているアレのことかしら？ 踊られる内容はエロティックなリュグマリオンというようなものに感じられました。
そのあとのスヴェトラーナ・ザハロワ×ウヴァーロフの「黒鳥のパ・ド・ドゥ」は期待が強すぎたせいか、予想外にあまり感動しなかった。もちろん素晴らしいのだけど、うーん、わたしも脳内麻薬物質が枯渇してきたか？ と思ったけれど、その次のディアナ・ヴィシニョーワ×ウラジーミル×マラーホフの「カジミールの色」の緊迫した空気感に感じ入る。
そのあとはポリーナ・セミオノワ×フリーデマン・フォーゲルの「マノン」で「寝室のパ・ド・ドゥ」。これもフォーゲルを生で見るのがはじめてなのもあり、すごーく楽しみにしていたのだけど、思ったほどセミオノワが色っぽくなかった… もちろん技術は確かだし、あのプロポーションだから綺麗なんだけど、うーん、Youtubeに上がってるギエムの「寝室のパ・ド・ドゥ」の表現力の高さが基準になってしまっているからか？ それともやっぱり脳内麻薬物質が枯渇してきているのか？
が、トリのオシポワ×サラファーノフの「ドン・キ」は凄かった。技術が凄いのはもちろんだけど、ステージのふたりから、それも特にソロで踊っているときに、なにかほとばしるものに完全に当てられる。わたしは第二部からずっと体温が上がりっぱなしなのがさらに上がった感が。そして家族はこれで完全燃焼してしまったらしく、しばらくしゃべれない状態に。渋谷まで這々の態で帰り、牛肉食堂カウベルで食事をして、その美味で人心地を取り戻すと、「こんなおそろしいフェス、三年に一回で十分だよ…」「危険だ。なんでこんな廃人造成フェスがパクられないの…」とか言ってました。
来週Bプロなんですけど、大丈夫かなあ。ちなみに大丈夫じゃないだろうと踏んで、わたしは今週来週とも翌日を休みにしています。
