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『ビルマVJ 消された革命』@イメージフォーラム

事前にノベルティ目当て*1で前売りも買い、見に行ったのは半月も前だけど、整理されたドキュメンタリーとはいえ、なかなか感想が言語化できない。それはこの映画が映し出すものがあまりにパワフルで、言葉というものでくくるにはこぼれ落ちてしまうものが多すぎるからだ。


そのパワフルなもの、というものは非暴力・不服従を貫いて、はだしで黙々と、庶民を抑圧する政府に対して抵抗の行進をする僧侶たちの姿だ。



ビルマの僧侶というのは日本の僧侶とはちがって、とても貧しい。托鉢をして回って、そのなかに入れていただいたものは、それがどんな組み合わせになってしまっていても、そのままありがたくいただくしかないのが彼らの命をつなぐ方法だ、と現地に滞在した知人に聞いたことがある。その知人は「だから、あいつら(僧侶たちのこと)はそういう忍従生活に慣れちゃってるからさ、抵抗運動って言ったって、ちょっと軍が出てきて脅したら、もう引っ込んじゃうわけよ」と、言っていた。


しかし、この映画を見たことで、それは単なるツーリストの思い込みだったということがわかった。僧侶たちは「3人以上の集会は届出なしに行ってはいけない」という政府による集会禁止令が出されても、なお抵抗の行進を止めなかった。しかし、そのために次なる集会のために泊まっていた寺院に踏み込まれ、100人単位でどこかに連れ去られてしまった。その行方は映画完成時にも不明だという。


映画のこの部分を見たとき、わたしは、この風景をよく知っている、と感じた。こういう風景を実際に見たわけではない。しかし、同じようなことがビルマの近隣国で起こっていることを、知っているのだ。


それはチベットでよく行われていることだ。チベット人の庶民のために僧侶が立ち上がると、中国政府はたとえガス抜きのためにその行動を最初は容認しても、結局は捕らえるか、僧侶がやって来た地元の寺に帰れというか、あるいはこの『ビルマVJ』でのように僧侶たちを捕らえてどこかに連れ去り、帰してくれなかったりする*2


日本は、この僧侶たちや学生たちの抵抗運動の取材中にAPF通信社の記者の長井健司さんが軍事政権によって射殺された件で、軍事政権にきちんと抗議をしていない。軍事政権はこの映画に納められた長井さんの死の瞬間について「捏造だ」と言い張り、長井さんが最後に撮影していたビデオカメラとテープを未だに返却しない。「捏造だ」というならばそのテープにこそ、軍事政権の正義を証明する映像が収められているはずで、隠匿する必要はないのではないだろうか。


こんなふうに、国の中にも外にも暴力で口をふさごうとする、ビルマの軍事政権は、うわさどおり、やはり中国政府の多大な支援を受けているのだろうか、と実感させられ、そんな寒々しい世界を作ろうとする力に震撼する映画だった。

*1:そしてその後、片方を無くしました…。ちなみにここの「劇場情報」に写真あり>http://www.burmavj.jp/

*2:先月の地震ではチベット人の子どもが連れ去られています>http://tcpnp.blog9.fc2.com/blog-entry-263.html