読んだり食べたり書き付けたり

霊長類ヒト科アゲアシトリ属ジュウバコツツキ目の妄想多め日録

日本映画をよく見た一年でした

1:『川の底からこんにちは
わたしの今年の一番はこれです。笑わせの直後に泣かせが来たり、「え?」という衝撃がたくさんあって、それがグルーヴを生み出している稀有な作品。田舎の人間関係を描きながらもべったりと土俗的なものを描くという泥臭い演出ではなく、誤解を恐れずにいえばやりすぎて突き抜けちゃってて、エミール・クストリッツァの『アンダーグラウンド』のようでもある作品。


2:『マイマイ新子と千年の魔法
空想好き・妄想好きだった自分の子ども時代を思い出したり、あのころは子どもでおとなの考えがわからなかったけど、あっちの事情はこうだったんだよなあ、などいろいろ。『赤毛のアン』や『小公女』を愛読してた人はきっと好きなんじゃないかな。


3:『春との旅
3:『告白
前者、『春との旅』は避けられない現実をベテラン俳優がすごい説得力の演技でつきつけてきて切ないを通り過ぎて突き刺さる感じでやや痛いほど(イタい、ではなく)。そのせいでラストは「いやー、そんな綺麗に終われればいいけど、現実ってそうじゃないからますます大変だよね…」と思ってしまいます。

後者は一般的な意味では後味はけしてよくはないし、「見て!」とおすすめはしがたいんだけど、ピカレスク・ロマンとしてはアリ。そう考えると自然現象の描写や爆発シーンが妙にリリカルだったり美しかったりするのも、装飾の一種なんだなと思えてくる。実質的に自分が迷惑かけられたわけじゃない人間を巻き込むテロって、こういうところから起こってくるのだろうなあ、など、負の感情の連鎖について考えさせられます。


5:『インセプション
いとうせいこう自身が「俺自身見てて俺原作かと思った」とツイートしたくらい、噂に違わぬ解体屋外伝*1っぷり。でも「暗示の外に出ろ」に続く「俺たちには未来がある」を言い切らない(見せきらない)のがノーラン監督のいつものすっきりしない終わり方。この監督さん自身が相当の闇を抱えてるのか、こっちの闇をえぐろうとしてるのかいまだに見分けがつきません。


6:『第9地区
地回りのヤクザとかいまだにウワサに上るアフリカの変な風習とか出てくるし、ロボはあからさまにマクロス系列っぽくて華奢だしと、いろいろとツボなSF映画でした。のちにメイキングを見て撮影環境の凄さにびっくり(苦笑)低予算とかそういう問題じゃないだろ、と。


7:『プージェー
モンゴルの少女・プージェーとその家族のドキュメンタリー。のどかなモンゴルの平原で始まった、そう長くもない上映時間のなかでいろいろなことが起こりすぎ、最後は茫然。現実の重さが腹にくる作品です。


8:『シャーロック・ホームズ』(ガイ・リッチーの)
アイリーン・アドラーがばっちり出てくるのが不二子ちゃん風味でよかった、たっぷりのBL&スチームパンク風味ホームズ映画。ひさびさにパンフレットを買うという行動をしてしまったくらい面白かったです。レンタルで見た友人によると特典映像がまたいいらしい。


9:『ソウルパワー
スターがスターらしかったころのキンシャサでの音楽フェス記録映画。やっぱりJBはすごいです。彼しかまとえない衣装やオーラが全開!


10:『ベジャール、そしてバレエは続く
ベジャールがほとんど現れないのに、ベジャールが横溢する映画でした。まるで精霊のように。そしてまた、途中で流れるラブレターに象徴されるように、濃厚な「愛」の映画でもあります。


11:『イングロリアス・バスターズ
ちゃんと語学やってたら数倍おもしろいんだろうなという、米語フランス語ドイツ語イタリア語英語入り混じる多国籍言語&文化アクション・エンタテイメントでした。タランティーノらしく血腥いシーンはド派手かつ大盛ではありますが、それよりなにより、やっぱり会話! 『パルプ・フィクション』冒頭の会話劇ふたたび、という感じです。あとドイツの地方ごとの数の数え方で間諜がバレたりとか細かい仕掛けの数々にうならされます。


12:『アリス・イン・ワンダーランド
3Dの必要性をあまり感じなかったなあ。『チョコレート工場』のときみたいにもっとマッドでタガが外れたのを期待してたのに、少女のビルディングス・ロマンの線に順当に沿ってる展開だし。ディズニー配給だから? 造形とか色遣いやデザインは素敵でした。


13:『ビルマVJ 消された革命
再現シーンも織り交ぜた半ドキュメンタリー映画。非暴力・不服従を貫いて、はだしで黙々と、庶民を抑圧する政府に対して抵抗の行進をする僧侶たちの姿が圧巻です。ちなみに長井さん殺害シーンがはっきり映っています。


14:『相棒 劇場版II
濃厚おっさんBL映画。みっちー見に行ったのにおっさん俳優陣に目が行っちゃって、あんまりみっちーを見てなかったというw でもそれでもいいやと納得するくらいおっさん俳優陣の色気がすごかったです。


15:『大奥』(よしながふみ原作の)
「もしかしたら」のきっちり映像化を堪能しました。華やかな殿中侍たちの着物、衣装さん作ってて楽しかっただろうなあ、とか、柴咲コウ将軍様、かっこよかったなあ、とか。キツい狐顔の「上様」と子犬顔の「水野」は、自分にないものを求めるという点で「私も女だったというわけだ」のセリフに生物的・官能的納得感があったし。


16:『THE SUN BEHIND THE CLOUDS
亡命チベット人の「今」を亡命チベット人のドキュメンタリー作家が撮った作品。こみあげさせるものがある、いい作品です。しかし、自分が上映会スタッフやっといてなんですが、字幕がちょっと満足いかないなあ。英語台詞だけでもリライトしたい…


なにかが足りない作品群:
赤毛のアン
アンってこんな「やかましい」「ややこしい」子だったっけ、と感じる自分の心情がすっかりマリラやマシュウの側に来ている、ということに気づかされてけっこうびっくり。足りなくなっているのは自分の乙女心でした。あとTVアニメの、アンが正式にグリーン・ゲイブルズの子になるまでのエピソードのみを映画に編集してあるので続きが見たくて物足りない。


カラフル
足りないっていうより砧線が見られればわたしはよかったんですけども、いろいろと問題のある登場人物に踏み込みかけて中途半端にしか描写せずに話が解決したふうに進んでしまうので… 児童文学らしい作品といえばそれまでですが。


必死剣 鳥刺し
現代の技術やセンスで撮られた時代劇が見たかったんです。吉川晃司のお侍さんはよかったです。でも、なにかが足りない。よくまとまった作品ではあるのですが… これが引き算の美学ってやつなのか?


ウディ・アレンの夢と犯罪
ウディ・アレンがなぜ、いま、これを撮ったのか、よくわかりませんでした。読み取ってくれといわんばかりの記号が多すぎ!

*1:小説は絶版ですが、現在、これを原作に浅田寅ヲが『ウルトラバロック・デプログラマー』(http://www.square-enix.co.jp/magazine/yg/introduction/ud/)連載中