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『冷たい熱帯魚』


映画サービスデー(一部の館ではレディースデー)の今日は『冷たい熱帯魚』を見に。過日見た『ブラック・スワン』へのもやもや感が吹っ飛ぶ凄い映画でした。『ブラック・スワン』よりずっとずっと恐ろしいことが延々起こっていて、それが最後の最後まで続くのですが、凄すぎて怖いという感覚さえ吹っ飛ぶ傑作。見る前から、これは現代の映画版『悪徳の栄え』ではないか? と思っていたのが的中しました。大森まで行った甲斐があった。ありすぎた!


もともと園子温という映画監督は好きで、でもなんだか大学の映研的ノリからなかなか脱しきれないので、10年くらい見ていなかったんです。傑作のウワサの『愛のむきだし』も未見。でも『冷たい熱帯魚』を見て、見られるときに『愛のむきだし』を見なかったことを猛烈に後悔しています。


冷たい熱帯魚』は不道徳と血腥さ満載なので、誰にでも薦められるというわけではありませんが、焼肉屋でのホルモンや血が出る描写が苦手ではない人、映画『告白』を見てよかったと思える人、マルキ・ド・サド作品が読める人にはぜひ見てほしい。ただし、見たあと自分か周囲の人間性に対して猛烈に懐疑的になるかもしれないので、ヤバいかな? と思ったらやめておいたほうがいいかもしれません。そういう意味で、この映画は、猛毒ですけどわたしにとってはデトックス映画でした。



ちなみにわたしは、この映画を最後の最後まで愉しんで見ることが出来、「とうとう日本でもここまで徹底した悪人映画が作られるようになったか〜」という感慨を抱いて興奮で発汗してしまった自分は、でんでん演じる登場人物と同じように「心が無い」ところが少なからずあるんじゃないかと、『悪徳の栄え』を興味深く読めてしまった自分は人でなしでは? と悩んだ10代のころのように自己懐疑を抱きました。


ところでマルキ・ド・サドの作品って、よく考えるとサディストと被害者しか出てこないんですよね。マゾヒストがほとんどいないのです。ザッヘル・マゾッホの『毛皮を着たヴィーナス』やポーリーヌ・レアージュの『O嬢の物語』みたいに、サディストとマゾヒストがなんらかの精神的紐帯を持って隷属したりさせたりという例はマルキ・ド・サドの作品ではすごく少ない。そういう意味で、やっぱり『冷たい熱帯魚』は園子温版『悪徳の栄え』だなあ、と思います。予告編でもちょっと見られるこの映画のサバト的な光景も、もしサドが見たら大喜びしそう。


悪徳の栄え〈上〉 (河出文庫)

悪徳の栄え〈上〉 (河出文庫)

悪徳の栄え〈下〉 (河出文庫)

悪徳の栄え〈下〉 (河出文庫)