読んだり食べたり書き付けたり

霊長類ヒト科アゲアシトリ属ジュウバコツツキ目の妄想多め日録

伊藤×円城→メリエス→代替現実システム

伊藤計劃×円城塔、最初で最後の合作長編『屍者の帝国』を前日に読み終えて、その衝撃も冷めないうちに、この日は午前中はメリエスと『月世界旅行』の再生ドキュメンタリーと『月世界旅行』本編を見て、コンコンブルでランチのあと、晴海の日本科学未来館で代替現実システムを鑑賞してきました。我ながらなんというSF充っぷり!

屍者の帝国』は、種々雑多なネタが緊密に絡まり合って怒涛の結末に至る傑作。スチームパンクSFではあるんだけど、その範疇に収まり切らないスケールで、円城さん、伊藤計劃文体でよく書き切ったなあと驚嘆するばかり。激しく映像化を誘う場面もあれば、これは書き言葉でしか十全に面白さを味わえないだろうという場面もあり、小説というものの面白さを存分に味わいました。読後は、『攻殻機動隊2.0』を歌舞伎町で見て映画館を出てきて街を見た時の「わたしはどこまでわたしでどこからわたしなのか」と、世界観が書き換えられた時に似た浮遊感。再読時にはiPadを脇に、出てくる固有名詞を片っ端から検索しつつ楽しみたい!

そして一夜明けて、この傑作小説の時代背景と通じるところのあるメリエスの生涯とその作品の再生過程と再生された本編の視聴。ドキュメンタリーはメリエスの栄枯盛衰っぷりが物悲しかった。特に映画屋を辞めるメリエスが、自作のフィルムに火を放つところは、ドキュメンタリーのなかでそれまで陽気そうな喜劇人として描かれていた部分とのギャップに、愛しさ余って憎さ百倍のような狂気じみたなにかを感じて切ない。その後、生前に再評価が行なわれた記録のあとに、エンドロールで、修復前のボロボロのメリエスの映画スタジオが延々と映される時に、自作に火を放つメリエスを思い出してなんとも言えない気持ちに…。

と、しみじみしてると再生されたメリエスの『月世界旅行』が始まるのですが、劇伴が拍子抜け。フランスのテクノってどうしてずっと80年代なんだろうなあ。本編はのらくろみたいな楽観的に帝国主義な感じで楽しめます。

それから銀座線、ゆりかもめを乗り継いで晴海へ。この日までやっていた代替現実システムを見に。どういうものかまったく想像がつかなかったのですが、非常に面白かった。同じ衣装で身長は同じくらいながら、ロングヘアでグラマーなダンサーと、ショートヘアでスレンダーなダンサーという、ちょっと今敏アニメ的な雰囲気の対照的なふたりが、左右対称だったり、モニター内に映し出される撮り溜めた彼女たちの映像と左右対称になるようになどして踊る10分間。

モニターが見ている、今現在、ステージで起こっていることと撮り溜めた映像とがシャッフルされた映像をスクリーンで、ステージでモニターのまわりを踊るダンサーを肉眼で見ているのに、だんだんどこまでが現実で、どこからが代替現実か、自信が持てなくなってくる。代替現実にはめられているのはモニターひとりだけのはずなのに! 『攻殻』TV版のバトーさんの「俺の目を盗みやがったなあっ!」ってこういうことか、と実感。

三日間だけなのがもったいないけど、生身のダンサーを拘束しなきゃいけないからそうそう長い開催期間にはできないのでしょうね。なお、わたしが見たのは女性ふたりが踊るバージョンでしたが、男性ふたりが踊るバージョンもあったようです。

ちなみに日本科学未来館では『科学で体験するマンガ展』というこれまたおもしろそうな企画展をやっていて、これは10月15日までなのでまた行こうと思います。日本科学未来館は建物も素敵だし、ゆりかもめはいつ乗っても巨大構造物がパノラミックに鑑賞できてわくわくするしね。