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千葉繁・じんのひろあきトークショウ@映画美学校

紅い眼鏡 [DVD]

押井守監督の初実写映画『紅い眼鏡』は、ハリウッド的な面白さはないけど、単館系な面白さはあることはある映画。超低予算(美術費五万円!)、夢落ちに継ぐ夢落ちの肩透かしが続く(監督は師匠に後日「あれはやっちゃダメな展開」と叱られたという)、映画の作法からすれば掟破りの最低映画とも言えるんだけど、それだけとも言いがたい。まさに百聞は一見にしかず、の一作。

今日は27年前に作られたこの映画を、主役を演じた千葉繁さん、美術担当だったじんのひろあきさんが語るイベント「押井守監督作品『紅い眼鏡』を語る。」に行って来ました。

この映画、わたしは封切り当時に熱烈な押井守ファンのクラスメイトに、なかば引き摺られるようにして見に行きました。その当時、いちばんの感想は「すごい低予算で現場、たいへんそう」。しかし、今日聞いた話は予想を超えて、ほとんどギャグのような過酷さ。

まず、美術担当のじんの氏が押井監督に言われたのが、「ネオンのないブレードランナーをやりたい」→じんの氏、ブレランを白黒にして見てみる。じんの氏の頭に「…無理なんじゃ?」という疑念がうずまく。

さらに監督補という約束で行ってみたら、「あ、助監は映画学校で集めちゃった」ということで、なし崩し的に美術担当に。しかも予算は五万円! 当時は本郷に事務所があり、東大にごみを拾いに行き、持ってきたものの中から監督が、これは使える、使えない、を仕分けし、使えないものはまた東大に戻す、という日々だったそう。

低予算のあまりに出演者全員ノーギャラ、さらに食にまったくこだわりのない監督のもと、ロケ弁はなし、毎回牛丼! 蕎麦屋のセット用に買ったずん胴で薄いカレーを作って食事にしたことも。それも工場跡地で照明がないから、車のヘッドライトに照らされて作っていたり。

また、監督は「カット」がかけられず、フィルムをいちいち使い切ってしまう。カットがかけられないのは、「だって、カットかけたあとに面白いことが起こるかもしれないし…」。でもって、「映画っていうのはなあ、現場のドキュメンタリーなんだよ!」と。

千葉さんいわく、今思えば楽しいけど、登場人物「アオ」の部屋破壊シーンで生爪二枚はがしたり、当時は過酷だった。金も時間も体力もギリギリの、みなボロ雑巾のようだった現場。挙句、裏方さんから言われたのが、「千葉さん、たまにはとちってください」。とちればその分、休息時間が確保できる、ということで、千葉さん、誠心誠意とちってあげたら、拝まれたそう。なお、撮影終盤の山形ロケで、千葉さんは気づいてみれば12キロ痩せていた。しかも記念撮影で顔筋の疲労で笑顔が三秒持たない。でもなぜか押井さんは太っていた!

また、これは『紅い眼鏡』関連では既出の話題ですが、冒頭のヘリのシーンでタンポポの野原からヘリで飛び立ちたいということで、四万個の刺身用タンポポを撒いた。もちろん終わったら四万個全部回収するという大変な作業。しかし、フィルムになってみるとタンポポは全く画面に反映されず…。

さらに、監督の指示でロケ地の工場跡地の管理人さんの自転車を撮影に使って投げ落として管理人さんに、「人の自転車になにしとんじゃ! これを落としてこれが何になるんじゃ!」と、怒られたり。ちなみに映画本編では千葉さんが自転車を漕いでるシーンはあるのですが、自転車が落ちてくるシーンはありません。もしかして、あの自転車、管理人さんのだった?

それにしても、じんの氏23歳、千葉さん31歳と、みんな若かったから(死神博士除く)ギリギリでもなんとかなった、としか思えない現場! ちなみに、この現場の苦労話をじんの氏がほかの現場や映画関係者に話すと、「ありえない…!」としか言われなかったそう。そうでしょうねえ…。

ほかに、千葉さんが体験した日本とそれ以外のアフレコ、マルチレコーディングの扱いの違いや、スターウォーズの日本語吹替でのリアリティ表現の彼我の違い、声優として有名になる前のスタントマン時代に体験した時代劇や映画の現場、千葉さんのアドリブのぶち込み方としては、俳優とキャラとの同一化が起こったとき、この役ならこれ言っちゃうだろ、というときに出る(ビーストウォーズはアドリブ八割、コンボイ以外はアドリブ盛りだくさんだった)など、もっとずっと聞いていたいようなエピソードが盛りだくさんで、二時間あっという間。

わたしとしては千葉さんと押井監督ということでは、アニメ『うる星』のメガネのキャラ表現と、千葉さん自身のキャラがどう相関して発展していったか聞きたくもありましたが(なにしろトークの千葉さんのキャラはかなりメガネっぽいのです)、映画脚本コースのイベントということで、映画の現場のお話中心でした。