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霊長類ヒト科アゲアシトリ属ジュウバコツツキ目の妄想多め日録

『ルック・オブ・サイレンス』@渋谷シアター・イメージフォーラム

虐殺者が人格破綻者の怪物かのようにも見える前作『アクト・オブ・キリング』よりコンパクトだが、今作の方が観客の逃げ場がないように思う。共産党員だから、とインドネシアで1960年代に100万人以上を殺した当事者は、いまだに権力の座にある。

そこで、自分の生まれる前に兄を殺された、わたしと同年代の主人公が、兄を殺した当事者たちにインタビューを重ねる。そんなことを蒸し返すとまた同じことが起こるぞ、と脅すインタビューイーあり、上層部の命令だったと責任転嫁する者あり。おや、さいきん日本でもそんな話題がありますね……。

ただ、逃げ場がなく感じるのは、初めにインタビュアーが虐殺者の家族と知らず、インタビューに得意げに当時のことを開陳してみせた権力者たちが、インタビュアーが正体を明かすと、一様に逃げの姿勢、責任転嫁や話のすり替えに走ることだ。

つまり、彼らは虐殺をしてまったく平気なのではなく、われわれと同じ、普通の人なのだ。アイヒマンや心理学の実験が、過去や架空ではなく、現代のリアルに存在している。それはチベット人を迫害する中国政府でわかっていることではあったが、あらためてそうした暴走のスイッチの入りやすさを、民族性などに帰して片付けるのは危険な思考停止だと感じた。