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マリインスキー・バレエ『白鳥の湖』

3年前の世界バレエフェスティバルの「瀕死の白鳥」で、それまでに見ていたほかのダンサーの同タイトルの印象をほぼすべて吹き飛ばしてくれたロパートキナ様が、黒鳥をどう踊るのか、が最大の興味だったこの公演。

黒鳥での登場シーンの無表情は、男に利用され翻弄されることと、そんな自分への怒りに感じられました。

白鳥のときは、気を張っていないと人間でいられない、呪いをかけられた身の哀しさが、やはり無表情から伝わってくる。

お顔はまるで角度や照明でいろんなふうにとれるお能の面のような無表情なのですが、身体表現の雄弁さはやはり凄い! なぜそう感じられるのかは皆目わかりませんが、すぅっと伸びた腕から手へのライン、カーブした脚のラインから切々と哀しみが溢れ出してくるのです。

ただ、なぜそこまで顔の演技が薄いのかなあと、ザハロワの黒鳥の騙しが決まって高笑いする演技などを休憩時間に思い出していたのですが、ラストでロットバルトが倒され、朝の光の中でも白鳥に戻っていない自分を発見したオデットの演技で納得。

呪いが解けたことへの喜びより、まずそのことが信じられない……、と一瞬、王子の存在も忘れているかのような佇まいに、ロパートキナのオデットは、呪いにかけられたことへの諦めに沈んで鬱状態になっていたのでは、と感じられたから。

いやあ、ほんとに踊る人によってそれぞれのオデットとオディールがあるなあ、と改めて思いました。

作品全体として見ると、数年前のマリインスキー・ガラでも思ったのですが、ロパートキナ様が異能すぎて、才ある集団のはずのマリインスキーのダンサーたちのテクニックの違いが浮き上がってしまう残酷さは相変わらず。

東京バレエ団は粒は大きくなくとも、カットもカラーもカラットも揃った集団なのに対して、海外有名バレエ団はカラットは大きいけどカラーもカットも揃っちゃいない、という感じがします。どっちが「おもしろいか」と言ったら、それは断然、後者なのですが。

そんなマリインスキー・バレエの白鳥、道化役のポポフさんが凄かった! 跳躍の高さ、滞空時間の長さに「えっ?!」となる。彼のバジルでドン・キホーテを見たいなあ。

さて、今回の劇伴は、劇場付き楽団と指揮者が帯同するので、チケット高くてもしかたないかな、と思っていたのですが、うーん、ちょっと期待外れでした。ティンパニは頑張ってたけど、生オケならではの低音の迫力がないし、低音弦楽器の層も薄い! 弦楽器でいえばヴァイオリンも不安定。少なくとも3年ほど前のマリインスキー・ガラの時より酷い。クリスマス公演シーズンで、来日したオケは二軍の方々だったのでしょうか。そんなわけで、世界バレエフェスティバルでのロパートキナ様のオデット登場シーンの演奏の貧相さを上書きするまでにはならずでした。

なお、今回の公演で、誕生日プレゼントのおニューのサイバーなオペラグラスを使って鑑賞したのですが、手で支えなくていいのは想像以上にラクでした! 夫の人は「あんな重い眼鏡かけてらんない」だそうですが。