ハンブルク・バレエ団『真夏の夜の夢』@東京文化会館
『リリオム』もそうだったが、音楽の使い方が素晴らしい。妖精の世界ではリゲティの現代音楽に、バレエならではのセリフのない演技と銀色の水泳帽と全身タイツのような衣装で、それが粘菌たちの世界を高速撮影した神秘的な映像を見ているかのような錯覚さえ覚える。それから幕の使い方もただごとではなくロマンチック! ただの布があんなにすてきに使われるとは!
英米文学専攻だったこともあり、セリフのないシェイクスピア劇というのがいまだにちょっと居心地が悪いところ、ノイマイヤー版の『真夏の夜の夢』は、そこを上記演出やキャラ立ちの面白さで補ってくる感じ。ただ、舞台の端から端まで使って、常になにかが進行しているので、一階のいいお席でしたが、10列より後ろのほうが見やすかったかも?
キャラ立ちでは、とくに押しの強いメガネっ子ヘレナが出色! メガネっ子を途中まで袖にし続けるヒゲ男がむかついてくるほど。『夢』の終わり近く、浮気草の汁はヒゲ男からも洗い流されてしまったのか、それとも寝ている間に夜露で流れてしまったのか、まだハーミアに心残りのありそうな仕草に、メガネっ子が心を痛めるシーンもせつなくてよかった。
そして、盛大な結婚式(ここもメガネっ子のままでやってほしかった……)でバレエとしては終わってしまうのかなと思いきや、「お嬢様はそんなこともご存知ないのですか」と言い出しそうな執事がそのままの姿ながら、悪戯好きなおっちょこちょいの妖精パックの貌で浮気草の香りを嗅ぎながら現れ、あのシェイクスピアの原作のセリフを思わせる終幕の芝居をするのはうれしいところ。
If we shadows have offended,
Think but this, and all is mended
That you have but slumbered here
While these visions did appear.
バレエ公演はここしばらく定番の悲劇ものを見ることが多かったので、今回はみんなハッピーな幕切れに大満足! ただ、リリオムでは安定感のあったコジョカルとユングの主役ペアが、今回はユングの技術がちょっとコジョカルと釣り合っていないような不安定さが散見されたのは、ちょっとだけ残念。