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『レッドタートル ある島の物語』

高畑監督が入れ込んでいる、という話から、単なる癒し系映画ではないんだろうなと思っていたけど、思っていた以上に身もふたもなく、容赦なくも美しい映画でした。物語の骨子はポリネシア系のよくある神話なのだけど、サブタイトルが「ある男の物語」ではないところが、みどころ。

見終わってから夫の人と話していて謎だったのは、
・最後に島の外に出る「男」はどこに向かうのか
 →夫の人:タートルの世界に戻る
 →わたし:いやそれなら荷物なしで身一つで行くのだろうし、あの「道具」に触発されないのでは

・なぜタートルは「男」に寄り添うことにしたのか?
 →夫の人:神だから
 →わたし:1・「えっ、殺したいほど外に出たかったのにすみませんでした」からの、せめてもの慰労、2・最初から子種を求めての行動だった、3・戻るべき社会がもうない(未来少年コナン的な意味で)から引き留めた

・なぜ母は息子と別れるときにあんなに悲しそうだったのか(夫の人)
 →わたし:イエスがキリストになっていく過程で母マリアがたびたび「心に留めた」瞬間が一気に来たのでは
などでした。

見る人によって、美しい画面の各所へのフォーカス具合も含め、微妙に見え方が違う映画だと思います。『シン・ゴジラ』『君の名は。』に加え、今年の夏の映画の傑作。わたしのなかでは芸術性ではダントツの1位。『シン・ゴジラ』が初代ゴジラを見る時の初めての驚きと恐さを目指したのに対し、『レッドタートル』は監督がそれを目指したかは不明ですが、浦島物語やそれに類する異類婚姻譚の生まれる原初が近代人にわかるように描けています。

あと、「レッドタートル」の振る舞いはちょっと『紅い眼鏡』の少女にも似てるよね。そういう意味では『紅い眼鏡』の神話性をあらためて見出した作品でもありました。