このキモさ、アナタにも分けてあげたい
アンヌ・ヴィアゼムスキーの『彼女のひたむきな12カ月』、ようやく読了。
ゴダール信者にはお勧めできない本。なにしろゴダールがキモい、キモすぎる! 映画作品と本人の写真からの印象で「なんかキモい」と思っていたゴダールが、やっぱりキモかったことがよくわかった本。かつてゴダールの妻だった作家は、ゴダールをキモい元彼としては書いていないのに、むしろ本書はまるで交際当時の小娘が書いているかのような平易な文章で、恋の不安と昂揚に彩られているのに、立ち昇ってくるゴダールのキモさにおなかいっぱい。読了にえらく時間がかかったのもそのせい。
本書でのゴダールは、ものすごく好意的に言えば情熱的、フラットにいえばストーカーになりそうな粘着質。作家自身の超ブルジョワ家庭とその周辺の様子や、ゴダールとベジャールの出会い、ゴダール夫妻をもてなすジャンヌ・モローのエレガントさなどの描写がなければ、読了できなかったくらい。山内マリコさんのあとがきは、同意すぎてヘドバン状態。
なお、作家は今年10月に亡くなっているので、この本が、小娘が書いたかのように純真さを装いながらゴダールのキモさを浮き上がらせるテクニックが駆使されたのか、それとも本人がこころから当時を懐かしんで書いたらこうなったのかは、確かめようがない。
【書評再録】ヴィアゼムスキー『彼女のひたむきな12カ月』 [評者]四方田犬彦 | 追悼 アンヌ・ヴィアゼムスキー | web ふらんす
それにしても、『中国女』を撮っているときに、超ブルジョワのお嬢様と付き合っていたなんて、裏切りじゃないかと思うのはわたしだけかしら? そして、その超ブルジョワなのに、まだ10代の娘より17歳上の、ある意味どこの馬の骨ともしれない出自の男との唐突な抜きうち結婚を知らされた作者の母には同情しきりの読書体験だった。彼女には時空を超えて、「小さな赤い本」ではなく「聖書」の名を持つこの曲を捧げたい。