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霊長類ヒト科アゲアシトリ属ジュウバコツツキ目の妄想多め日録

『ダンサー セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』@ル・シネマ

銀のスプーンを咥えて、ならぬ、赤い靴を履いて生まれることの功罪の、主にネガティヴ面を突きつける映画。誰よりも美しく踊れるのに、踊るたびに痛みを伴う、というのは、赤い靴というよりも人間になった人魚姫の両脚のようでもあり。

赤い靴を履いて生まれてきても家族が揃って暮らせる
赤い靴以外にも自分にはやりたいことがあると思える
または、鋼のような精神と赤い靴を備え持って生まれてくる
というのはたぶん稀なことで、そして天才的だと思っていた自分の赤い靴が、実はそれほどでもないと思い知らされて心折れるダンサーも、たくさんたくさんいるんだよな、と重苦しい気持ちになる。ラスト、黙々と空の客席を前に舞台上で踊るポルーニンの姿も、これからも心から流れて赤い靴に染み込んだ血は消えないよ、というプレッシャーを伝えるかのような雰囲気。

「take me to church」のピルエットで、つま先までしっかり映っていたら、もしかしてそんな重苦しい印象は、少しは払拭されたのかも。いや、それくらいバレエダンサーのつま先が映るかどうかは重要なのです。でもそれもこの作品の狙いとしてトリミングされたのかも、とも考えてしまいます。