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さよなら、香港ロジ

今週のお題は、「好きな街」。渋谷は「好きな街」だった。好きというより、馴染み深い街だ。幼少期、初めて通った歯医者は公園通りで、パルコの向かい、斜め下あたりのビルの中にあった。

虫歯治療というより、歯列矯正のために永久歯に生え変わった歯のうち、顎の骨に合わない歯を抜くために行っていたので、正直、行きたくなかった。行きたくなさを封じるために、母に加え、父方、母方の祖母が着いてきたこともあった。

そんな日の帰りに女ばかり三世代で寄ったのは、公園通りの坂を駅まで降りて、また道玄坂を少し登った朝日屋。蕎麦屋だが、わたしはまだ口の中が痛いので、うどんを冷ましながら食べさせられていたと思う。

その朝日屋は今年の夏の前に、突如閉店していた。

mmc.hateblo.jp

夫の人が朝日屋の近くの、これまたよく行く餃子と長崎ちゃんぽん、皿うどんが絶品の長崎飯店でこれを愚痴ったところ、「後継者がいなくて」という事情だったと知った。長崎飯店のおばちゃんは「うちには来てね!」と言っていたそうなので、こちらはまだ大丈夫そう。

そして七月二日にはマメヒコ宇田川町店が閉店。

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マメヒコは同じ渋谷、それも例の歯医者のあったあたりの公園通りのビルにもう一つお店があるけれど、そちらは表通りに面した大きな窓から明るい光の差し込むリア充的なお店で、地下の宇田川町店の陰キャ的なところが好きな身としては、なんとなく落ち着き方に差がある。とはいえ顔見知りの店員さんもいるので、行けば落ち着けるのだけど、やはり宇田川町店の、初期の村上春樹世界のような昏さは求めるべくもない。

そして今月は、渋谷の桜丘で閉店が相次いでいる。「あおい書店」、ジャズカフェ「メアリー・ジェーン」、立ち飲みの「富士屋本店」、そして「香港ロジ」。このあたりは再開発されるそうで、それに伴ってのことなのだが、こう立て続けだとどうにもこうにもせつない。

shibuya-meshi.info

香港ロジは咸水餃(ハムスイコッ:五目揚げ餅餃子)が点心メニューにある貴重なお店で、10年くらい前はセンター街の奥に店があったのが、ビル解体とともに消え、桜丘店も再開発で消える。夫の人は「そうやって表面的に綺麗で中身のない街になって、ゾンビみたいに俯いてケータイを見ながらフラフラ歩く中身のない人間の集う街になるんだ」と悲しんでいる。

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わたしにとっても、馴染んできた「好きな街」だった渋谷は、過去形になりつつあるのがせつない。都市でも田舎でも、ふるさとというものの変化へのせつなさは、あまり変わらないように思う。

いつもと変わりない青菜の仕分け、雑然としたカウンター、現地式のそっけない接客。いつもと同じく美味しい茹で餃子と咸水餃、マンゴープリンを食べ、ジャスミン茶を飲んで、店を出た。さよなら、香港ロジ。


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今週のお題「好きな街」