『白鳥の湖』シュツットガルト・バレエ団@東京文化会館
フォーゲルとアマトリアンの『オネーギン』と同じ主役ペアでの『白鳥の湖』。同じペアで見た『オネーギン』もそうでしたが、メリハリ効いたアリシアに持ってかれたというか、最後まで運ばれた感じが強い『白鳥』でした。とはいえなにかこう、釈然としないものが残って、薄紙一枚のところで没頭しきれなかった気がします。
というのも王子のキャラクターがいまいち理解に苦しむものだったから。
オデットと出会ったあと、舞踏会でロットバルトとオディールが登場する前、本来のお見合い候補の姫君たちが踊っている間も、「はいはい、いくらアピールしてもぼくはもうオデットちゃんに決めてますから~」とばかりにニヤニヤしているのです。
そして、王子はオディール登場の最初から満面の笑みで、なんの疑いもないご様子。なんなら「フォーマルだから黒のドレスに着替えてきてくれたんだね!」とでもいわんばかりの笑顔。結婚を誓おうと女王の前にオディールを連れて行っても、良心の呵責のようなオデットのまぼろしが出ないのが、完全にオディールをオデットだと信じ切ってた感に拍車をかける。なお、オデットのときと打って変わって、オディールは悪そうでとてもよい!
そんなふうに王子が完全に逝っちゃってる一方、舞踏会に現れた禿頭面白メイクのロットバルトに女王も宮廷の女性たちも、そしてわたしも、「……」。宮廷の方々は王子以外はオディールともどもロットバルトを胡散臭げに眺めています。っていうか、女王は真顔でめっちゃ見てる。まああのメイクなら、そりゃ、見ますよね普通は。今回のクランコ版、ロットバルトが禿頭の面白メイクおじさんじゃなくて凄腕悪魔な外見なら、「天変地異レベルの洪水を起こして王子は溺れ死んでしまいました」がまだ納得できるのですが……。
ちなみにロットバルトが禿頭じゃなくとも、げげっと思うような外見で舞踏会にやってくるのはほかのバージョンでもあるのですが、その際に面白メイクおじさんのロットバルトと女王が和やかに談笑してると、「おいおい、明らかにそいつ胡散臭いだろ。大丈夫なのかこの女王にこの王子でこの国……」と思ってしまいます。
それでもってそんな女王は王子が「この人と結婚を決めました!」とオディールを伴って宣言すると、心から安堵したり喜んだりするのです。それを見ると、「女王がこんなボンクラだから王子もまんまと騙されるんだよ!」と思ったり。
ですが今回の女王は、王子の「彼女と結婚したいです!」の訴えに安堵感などなく、「はいはい、この中からね」と四人の見合い相手を示す始末。
最後の王子とオデットのパドドゥは、ロットバルトが現れてからはオデットがどんどん弱っていくので、ちょっとマノンの沼地のパドドゥっぽさがありました。マノンとは男女逆に王子は死に、オデットはロットバルトに連れ去られるのを見て、「また別の国のぼんくら王子に対して使われるのかな」と思ったり。
それにしても、オデットは王子のどこを好きになったんでしょうね……。白鳥でいる時間が長くなればなるほど、生き残るために利用できそうなものは利用する、という動物っぽい行動原理になってしまったのか? あえて言えば王子の仲間が白鳥たちを射ようとしたのを止めたから、なのでしょうか。狩りの獲物になるものを見つけても、がつがつと狩らないところがよかった、とか? それにしても今日のはわかりにくかったなあ。
終演後はソファでアンケートを書いてから空いたお手洗いに行き、『オネーギン』のBDを買って出ようとしたら、入り口カウンターで演出についてなにか物申したいおばさまがたが係の方に声をかけてました。ソファでも「彼をあんな風に扱うなんて!」と慨嘆してた方が。うーん、でもかなりアホ王子的な役作りだったと思うので後者は仕方ないのでは。
前者に関しては音楽については、かなり無理に繋げてるところもあって、うーん、と思うところも。むしろもう繋げず使えばよかったのに。振り付け的に無理だったんだろうけど。その点、どうしてもロイヤルのリニューアル版と比べてしまいます。
衣裳はロイヤルよりも見応えあったかも。とくに群舞の衣裳はいちいち素敵で、かなりカブキグラスが活躍しました。とくに第一幕第一場の領民の胴着の刺繍や柄! そして、カブキグラスを使っていたので舞踏会での王子のニヤニヤがしょっちゅう目に入ってしまった、というわけです。
◆おまけその1
しかし、この日の東京文化会館はマナーのない大人が多かった……。鈴の音とか(なぜ鈴? 応援上映じゃあるまいし)、ドロップ入りの缶をカラカラ言わせてる音とか、休憩時間に後ろから突進してきて押しのけていく年配女性とか。最後のは「うわ野蛮」と思わず見たら、「早くどかないのが悪い」的な悪態をついてるし。こんなに優雅で感傷的な悲劇を見に来ていて、そのような心持ちになれるのが不思議。
◆おまけその2
今回のパンフレットより。やっぱりそうですよね! ブログにもかつてそれを書いたら非難コメントがついたりしましたが。
◆おまけその3
タチヤーナ腐女子疑惑、勃発。
むしろオネーギン×レンスキー原稿とか書いているのではと疑われるレベルのグヘへ具合ですか?
— Mmc (@chevre) November 3, 2018
これはw 冬コミ原稿をやっているに違いない!
— Mmc (@chevre) November 3, 2018
こうなるとあとのシーンも「ばあや、朝イチでこれを印刷会社に入稿してきて! 割引期間終わっちゃう!」的な。
— Mmc (@chevre) November 3, 2018
『白鳥の湖』を見た後に会場で買った『オネーギン』のBD、自分が見たのと同じくフォーゲルとアマトリアンなのですが、手紙のシーンの表情を確認するのが今から楽しみです♪