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アクラム・カーン版『ジゼル』二度目@東劇

新年初映画館、かつ二度めのアクラム ・カーン版『ジゼル』は夫の人と一緒に。夫の人曰く「群舞がテクでいうと三角波がビシッと立ってる感じでとてもイイ! ただパドドゥはあんまり……」。

パドドゥはわたしは違和感なく見ていたけど、クラシックバレエ的な「見せ場」になっていなくて、演劇的に全体と馴染んでいるとも言えるので、見る人によってアリかどうかが分かれるんだなあ、と。

一回目を見る前は、「タマラ・ロホがジゼル?」と思っていたのですが、今作のジゼルは原作と違って病弱じゃないのと、工場労働者ということ、ロホが演じていることで、『カルメン』を思わせます。

なお帰り道に友人たちと話しながら一致したのが、
「アルブレヒトがおっさん」
「アルブレヒトがかっこよくない」
「工場長アルブレヒトが移民で立場の弱い労働者ジゼルに手をつけちゃったみたいに見える」
と、アルブレヒトの配役に不満噴出! これも、クラシックバレエ版『ジゼル』で、ジゼルとアルブレヒトは美男美女! というものを求める気持ちが強いとそうなるよね、と。

ただこの映画版、ヒラリオンが原作と違ってくっきりと悪者で、歌舞伎でいう色悪的な華があるので、そっちに男性役の魅力を振ったのかな? とも思えます。アルブレヒト役がおっさん工場長っぽいのは、より現実的に、ということなのかもしれません。

その視点で見ると、バチルドはアルブレヒトの婚約者というより、工場を保有する企業の幹部で、「最近この工場の風紀とコンプライアンスが乱れてると密告が(ヒラリオンから)あったので見に来てみたら……。はぁ〜〜(ため息)」というストーリーにも見えてきます。そうなら、アルブレヒトがバチルド側に戻れないラストは納得!

そしてミルタはちょっと百合っぽい。「なんで? なんであんたそんな男をかばうの?」と関西弁のイントネーションでジゼルに語りかけてそうな雰囲気。それにしても第2幕、原作と違ってずーっとずーっとポワント! みなさん強靭! ミルタ登場シーンはトウで歩いてロホを引き摺るって、やっぱり大変そう! わたし的にはウィリたちの世界は黄泉の国ではなくて、さらにアンダーグラウンドな、たとえば水道管のなかで暮らす貧困層のイメージ。

そして劇伴は今回も最高。ありがちな流れからふとノイズに切り替わるときなども計算されていると思う。第2幕の音場設計はあちらふうの「ヒュ〜ドロドロ」なんだろうなあと思って見ていました。

実は過去のアクラム ・カーンのオリジナル作品はいまいちはまれなかったのですが、ジゼルはどはまりしました。もしかして、アクラム ・カーンは押井守のように、原作付きなどの制約があるほうが輝くタイプなのかも、と思ったり。

 

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