映画『メリー・ポピンズ リターンズ』@TOHOシネマズ渋谷
ディズニーのオリジナルストーリーですが、この「メリー・ポピンズ」なら天国のトラヴァースさんも「ふん、まあまあね」と言ってくれそう。わたしは大満足でした! 冒頭のガス灯のあるロンドン、そしてセントポール大聖堂ですでに涙ぐんでいたほど、心の中の『メアリー・ポピンズ』の視覚的再現度がすごい。続く登場シーンも完璧で涙腺決壊。これは期待が高まります。
- 作者: P.L.トラヴァース,メアリー・シェパード,Pamela Lyndon Travers,林容吉
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2001/06/18
- メディア: 単行本
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実はディズニーの一作めの『メリー・ポピンズ』、わたしはあまり好みではないのです。ジュリー・アンドリュースはメアリー・ポピンズにしては優しすぎるし、何より原作の挿し絵の、黒っぽい髪の木彫りのオランダ人形のようではないので。
でもこの作品は、ストーリーがオリジナルなのに、原作をうまくリメイクした上で、子どもたちの髪型や服装まで、あの挿し絵を3Dにしたかのよう。なによりメリー・ポピンズ役のエミリー・ブラントの演技に説得力があります。エミリー・ブラント以外もみんなうまいし、「原作のジェーンもマイケルも大きくなったらこうなりそう」と思わせてくれます。
そして、悪者はすぐそれとわかる子ども向けでありながら、子ども騙しではないのです。ディズニーでは年末に、今回の『メリー・ポピンズ』のように母を亡くした家族をテーマに、ポルーニンやミスティ・コープランドが出てドゥダメルが振るということで、子ども向けではないように宣伝しながらも子ども騙しと感じた『くるみ割り人形』にがっかりだったので、けっこうおそるおそる見に行ったのですが、原作ファンにも1964年のディズニー実写映画ファンにも目配りしつつも(まさかあの2ペンスが! あのスノーボールが! あのバンクス家があの通りと間取りでそのまま!)、現代のテイストもマッシュした(あのシーンのHIPHOPみ! メリー・ポピンズがウィリー走行!)佳い出来でした。ディズニーも看板商品の続編だけに、力が入ってたんだろうなあ。
最後、メリー・ポピンズが風船に映った自分に向かって「なにをしても完璧!」と言うときのエミリー・ブラントの、完璧だからこそ不完全な人間社会に留まれないメリー・ポピンズの、複雑でセリフを凌駕する表情は、原作の翻訳ふうに言うなら「みもの」です。ジュリー・アンドリュースの『メリー・ポピンズ』に欠けているとわたしが感じていたものが、そこにありました。
足りないものがあるとすれば、原作と1964年の映画版にいる「鳩おばさん」のような社会的弱者へのまなざしでしょうか。1964年はわたしの生まれる数年前ですが、「鳩おばさん」のような人の存在は現実でも当たり前だった時代です。