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霊長類ヒト科アゲアシトリ属ジュウバコツツキ目の妄想多め日録

怪談で、涼しくなれる?

夏は、「怪談を聞いて涼しくなろう」というキャッチコピーを、一度はどこかで見かける気がします。「怪談を聞くとぞっとして背筋が寒くなる」→「夏は暑いから怪談を聞いて納涼」ということなのでしょう*1

ところでほんとに皆さん、怪談を聞くと寒くなりますか? わたしは逆で、背後に神経が集中して、背中が熱くなるのです。これは冬に雪山や寒さについての怪談を聞いても、同じです。

それというのも怪談が、おもに幽霊や妖怪による超自然的な災害譚だから。映画などのキービジュアルでもそうですが、大体の幽霊やあやかしが人間の背後から迫ってくるというイメージが強いので、ゴルゴ13の「俺のうしろに音もたてずに立つようなまねをするな」という警戒態勢になるわけです。

 

俺の後ろに立つな―さいとう・たかを劇画一代

俺の後ろに立つな―さいとう・たかを劇画一代

 

 

いわば気魄によって、実体ではなく気配で悪さをする幽霊やあやかしに、「寄ってくんな!」と威嚇するわけで、それはやはり背中が熱くなるほどにエネルギーを使わないと、できません。

そしてわたしは、幽霊やあやかしよりも、生きている人間がする「怖いこと」を聞いたり読んだりしたときのほうが、確実に鳥肌が立ちます。

 

ぼっけえ、きょうてえ (角川ホラー文庫)

ぼっけえ、きょうてえ (角川ホラー文庫)

 

 

そういう意味ではこの本は、生きてる人間の怖さ9割、幽霊やあやかしの怖さ1割(それもおそらくは人間側の気の迷い)で背中が熱くなりつつ、鳥肌が立ちそうになりました。特に怖かったのは、表題作ではなく*2、その後に続く主人公が男性の作品「密告函」。自分が男に生まれていたら、あの主人公みたいになっていそう、という自省を迫られます。

 

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そんなことを、「郷里の娘」さんの2019夏コミ新刊『キャバレー百物語』を読んで思ったのでした。

この『キャバレー百物語』はというと、百物語といっても怖い話ばかりではなく、人間同士のしみじみする話がけっこう多いのです。多いのですけども、そのしみじみに浸っていると、キュッと怖い話が差し込まれて、きゃっと思う。エピソードもですが、編集が秀逸でした。

 

 

なお、わたしがいちばん好きなエピソードは、こちらです。苦笑とともに、なにがあったのかわかってしまう*3、そういうおかしみがちょこちょこ覗いたり隠れてたりしている本でした。

 

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*1:ところで「夏は怪談を聞いて背筋を寒くして涼しくなろう!」というひとは、冬に聞く雪山や寒さについての怪談は、どうしているのでしょうか。冬に、さらに寒くなったら生命の危機だと思うのですが。なお、わたしが冬の怪談でいちばん怖いのは、冬山登山中にバディが死に、そこで埋葬して自分だけ下山し始めたのに、下山中にビバークして眼が覚めると埋めたはずのバディが自分の横に(ただしもちろん遺体)、という話です。

*2:表題作って、すごく、その、どろりとした百合みがありますよね? そこが怖さ一本槍になるのを堰き止めているように思います。

*3:不粋ながら解説すると、このお客さんは「女王様」のお客さんでもあって、女王様の命令を嬉々として実行して報告したつもりが……、ということなのではないかと。そして、このお客さんのアドレス帳内ではホステスさんと女王様が同じカテゴリで分類されているんだなあ、と思ったり。