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脳内欲しい本リストの崩壊

まただ。たしかに買おうと思っていた新刊書があったのに、それが何の本だか思い出せない。新聞の書評欄や広告欄、ツイッターで流れてくる読書感想で知って興味を持った本を、メモせず脳内の「欲しい本リスト」に雑多に積み上げた結果がこれだ。

「欲しい本なんだから、書店に寄る時間が来たら、自動的に思い出すだろう」。以前はそう思っていたし、そうしていた。しかし、老化に伴う脳細胞の劣化のせいか、それともうっかり目に付いた本も買ってしまわないよう、こまめに本屋に寄らないようにしたせいで「脳内欲しい本リスト」が積み上がりすぎているのか、書店に足を踏み入れても、あまつさえ新刊書店棚を見渡しても、目当ての本がそこにないと、いったいどんなジャンルの何の本を欲しいと思っていたのか、思い出せないのである。

耄碌したらきっと、頭の中の、読みたいのに思い出せない本のイメージで『文字禍』のように殺されるのだろう。そう思いつつ書店を徘徊する。

朗読CD 朗読街道(65)文字禍・盈虚 中島敦

朗読CD 朗読街道(65)文字禍・盈虚 中島敦

 

 

そもそも探しているそれは「本」なのか?雑誌コードはついていないけれど、雑誌コーナーに並べられているたぐいのブツだったりはしないのか?そう疑って新刊棚だけでなく、雑誌平台も見て回る。そして困ったことに、目当ての本の周辺領域の本や雑誌で、あらたに惹かれるものを見つけてしまい、そのタイトルを、またもやメモせず脳内に放り込む。

「そうだ、あっちの書店の新刊棚のあのあたりにありそうな本だった」。相変わらず目当ての本の確たるタイトルや著者、出版社を思い出せないままに、パソコンで読みを打ち込んで正しく変換はできるのに、いざそれを肉筆で書こうとするとへんもつくりももやもやと雲散霧消してしまう難しい漢字のおおまかなシルエットを思い出したときのように思いつき、おぼろげな書影の面影を求めて、その書店のその棚へ向かう。

あった!ようやく買おうと思っていたその本を買う。しかし、その棚のその位置に来るまでに、またぞろ「脳内欲しい本リスト」に雑多なタイトルが積み上がったのを苦々しく感じながら、会計を済ませる。

いっそ、この本を読んでいくうちに、今日、この本を求めて彷徨っているうちに目に付いた、この本の周辺領域の「脳内欲しい本リスト」の記憶がなくなればいいのに……。

だが幸か不幸か、まるで『猿の手』のように、願いは少しだけかなえられ、「そうだ、買おうと思っていた本があった」と書店に足を運ぶ次の機会に、わたしはまた同じように彷徨い歩くのだ。

猿の手 (恐怖と怪奇名作集4)

猿の手 (恐怖と怪奇名作集4)

 

 

なお、本日、上記の過程を経て買ったのが、このご本です。

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吉田都 永遠のプリンシパル

吉田都 永遠のプリンシパル

 

※「月刊暗黒通信団注文書」2019年9月号初出原稿を改訂