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霊長類ヒト科アゲアシトリ属ジュウバコツツキ目の妄想多め日録

アイヌ語における「上野」

もう先々月になってしまった北海道旅行、着いてみたらアイヌ推しのホテルでした。館内着から館内装飾、ギャラリーやら浴室名やら、阿寒湖のアイヌコタンが近いのもあってか、何やらかにやらアイヌモチーフが頻出。館内で前回の東京オリンピック時に二十歳だったというアイヌの古老の語り部の時間が毎日あったり。

 

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その語り部の時間が始まる前に偶然そのギャラリーを通りかかったら、語り部ご本人に呼び止められたのでお話を聞きましたが、ほんの三十分のお話で、金カム既刊全巻を超す焦燥感を味わうことに。

ゴールデンカムイ コミック 1-19巻セット

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特にぐさっときたのは、「北方四島とか二島返還とかいうけど、北方十九島にいて、ソ連参戦で着の身着のままで根室に逃げてきた一万七千人のアイヌのこと、どう考えてるんでしょうね、偉い人たちは」という話。「一人も自分の島に帰れていないし、十年前に調べたら、一万七千人のうち、一万一千人はもういなかった、亡くなってました。今はどれだけ残っているか」とのこと。「北方領土返還の話で、アイヌの『ア』の字も聞いたことない」とも。


以前、ハワイでもそう感じたのですが、先住民のデザインしたモチーフを前面に押し出したホテルに泊まると、なんともいえない気持ちになります。マジョリティの側が、かつてのマジョリティが迫害した人たちやその文化を、「すみません、(私たちの考える)文化の多様性に、やっぱりあなた方とその文化は必要でした」と言っているようで*1

もちろん、知らないより知る機会がある方がいいけれど、こういう出会い方しかできないのが哀しい。古老には気に入られたのか、お話の時間が終わっても、全国各地や東京に残るアイヌ語の地名とその意味など、アイヌ的アースダイバーなお話をしていただきました。

増補改訂 アースダイバー

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そして翌日にお土産店で買ったアイヌ単語集に、この番外編で聞いたばかりの「上野」の説明がばっちり載っていて大笑い。お話のときには「不毛」という言葉ではなく、「どうにもならん、ぐだぐだの使いようのない土地」というようなことを言っておられました。

 

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古老曰く、「上野で高層ホテル建てるとかいって基礎を打とうとしたら、全部ズブズブ沈んでいって、しかたなくコンクリートで固めてビル建てたってことがあったけど、あんなのアイヌにとっちゃ当たり前のことさ!」。なお、悪口は基本的にアイヌ語で、だそうです。

*1:泊まったこのホテルはラウンジの本棚にも2000年代になって道内で発行された知里姉弟本があったりと、生半可にアイヌモチーフを利用しているわけではなさそうです。