天使と社畜
岸壁の下、うつ伏せで浮かぶサンタクロースを見下ろしてトナカイのルドルフは叫んだ。
「これで解放されるぜ! 野生動物なのに社畜にされるのも、もう終わりだ!」
同僚のトナカイであるダッシャーが呼応する。
「楽しい秋に、休日返上でおもちゃや材料を工場に運ぶ毎日も、もうたくさんだ!」
ほかのトナカイたちも唸るように吠える。
「帰ろう、北に」
だが北のサンタクロース基地に戻ると、なぜか斃したはずのサンタクロースがトナカイたちを出迎えた。
「げえっ、な、なんで?」
慄くトナカイたちにサンタクロースは言った。
「サンタクロースっちゅうんは概念だからのう。お前たちが殺したのはわしのガワじゃよ」
(くそっ、これで野生に帰れると思ったのに)
(ガイネンってなんだ? とにかくこいつも殺るしかないな)
トナカイたちが目で会話していると、突然空が明るくなり、天使があらわれた。
「おやめなさい、あなたがたの罪が増えるだけです」
トナカイたちの間に、もはや人間のかたちのものというだけで天使への怒りが迸る。
「んなこと言ったってこの秋から十二月の労働環境どうにかしてくれよ!」
すると、天使が脇に抱えていたファイルを開いて言う。
「年間平均に均せば、法律の範囲内です」
天使の開いたファイルの裏表紙には、PAS0NAの文字が入っていた。
※フィギュアのお手入れで埃取りをしながらの妄想です。