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『スカイ・クロラ』

オリジナル・サウンドトラック 「SOUND of The Sky Crawlers」
冒頭の音でいきなり引きずり込まれました。飛行機好き、CG好きなので、空中戦で始まるのにも。


音に関してはこの冒頭の空中戦だけでなく、板張りの床に敷かれた絨毯の上を歩く音などの些細なところにまでけれん味すれすれ、かつ繊細な演出がされていて、これは『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』を同じ音の演出で『2.0』にしたくなるはずだと納得。『2.0』ではとくに雨音が情緒的に変化しているのにうっとりしましたが、『スカイ・クロラ』では風の音や風を切る音、衣ずれにハッとさせられました。


まあそれもこれも本編の内容と噛み合っていてこそ。その本編ですが、「繰り返される日常」という監督がずーっと描き続けているテーマではあるものの、今回はそれへのアプローチとそこからのメッセージが、これまでの監督の「ループ映画」とははっきりと違っていて、それは喩えるなら、これまでの子ども〜青少年を主人公にした押井ループ映画(『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』『天使のたまご』『御先祖様万々歳!』あたりを思い浮かべてます)が『ヘッド博士の世界塔』なら、『スカイ・クロラ』は『犬は吠えるがキャラバンは進む』というくらいで、静かに感動していました。変わらない、変えられないように見える平坦な日常を変えるには、一見、絶望的なくらいに変わらず繰り返される日常の「質」を変えていくしかない。そのことで「繰り返される日常」を内側から変化させていくことが、日常の先の未来を変えるんだ、というびっくりするほど直球なメッセージ! 


GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』の素子やバトーは、見た目は義体で若くは見えていても実際の中身はトシはとっていくし、その過程から日常を変えていく手段も方法も身につけているけれど、『スカイ・クロラ』の永遠に大人にならないキルドレたちはそのような手段や方法を身に付ける前に存在がリセットされてしまう。しかもそのことに(戦争請負会社に自分たちがリセットされ、再利用され続けているということに)、気づかないキルドレたちがほとんど。


そのことに気づいたキルドレの1人は、ループを歪ませる挑戦としてかはわからないけれど、どうやらキルドレではない「大人」との間に子どもを作り、また1人は別の挑戦に賭ける。そのことで大局的になにが変わったか、は描かれないけれど、エンドロールの後のシーンで、少しだけループが変わっていることが提示されます。押井監督は「若者に言いたいことがある」とこの映画を作ったそうですが、若者に限らず、生活と人生に閉塞感を感じているすべての人になんらかの種を撒くことができる映画ではないでしょうか。


それにしても監督の空手効果が出たなあというか、身体が変わると思想も若干、影響を受けるものですねえ。だいぶ以前、わたしも少しだけジムに通ったことがあって(自転車漕ぎだけですが)、それだけでも習慣になってきた時点でなにやら思考系態の変容が感じられてそういう自分に違和感を感じたのと、引っ越したのもあってやめてしまったことがあるのですが、あのまま続けていたらどうなっていたんだろう。


ところでこの映画、そろそろ公開が終わりつつある館もあるのだけれど、感覚としては真夏より、夏の終わりから秋にかけての気分がしっくり来る映画だと思います。なので、まだの方はこれから映画を観て、観終わってから屋上カフェとかで秋空の鰯雲と飛行機雲を見上げつつ映画を反芻するという幸福な時間を、ぜひ。




追記:そういえば、監督お得意の「ダレ場」がありませんでしたね。そのことで監督の「近年培ってきた演出手法を封じ、『イノセンス』とはまったく違うシナリオ・演出法*1」という決意を思い起こしました。