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HOPE JAPAN 2011 Dプロ

日帰りで福岡。目的は踊り納めとなる可能性が高いギエムの『ボレロ』。福岡公演は、ギエムだけじゃなく、かなり満足度が高かった。プログラムは以下の通り。

『白の組曲
『ルナ』
『詩人の恋』
『TWO』
ボレロ

福岡サンパレスホールでとったA席は、東京芸術劇場だったらS席にカウントされそうな三階袖席だったので、『白の組曲』から東京バレエ団のフォーメーションがばっちり揃っているのを俯瞰で満喫。「マリみて」っぽいロマンティック・チュチュ(『ジゼル』でおなじみの長いチュチュ)の三人組もやはりかわいい。

休憩を挟んでギエムの『ルナ』はお気に入りでずっと踊っている演目とのことだけど、見るのは初めて。クラシック寄りのコンテンポラリーという感じ。

次の『詩人の恋』は上野水香・高岸直樹ペアだったのですが、みじゅかタン、とてもよくなっている! ツアーで踊ってきて最終日なせいなのか、それとも夫婦ペアでおたがいいい影響を及ぼしあっているのか。コミカルな役柄をキュートに踊っていました。やはり彼女は純然たるクラシックより、コンテンポラリーやこういうキャラクターもののほうが合っていると思うのだけど、本人はどっちに志向性があるのでしょうね。

次は5年ほど前に一度見た『TWO』。これは照明が重要な役割を果たす作品。ギエムが踊るスペースはほんの2メートル四方。方丈にも満たない、小さな空間。そして、ギエムの立つその2メートル四方にだけ照明が当たっているのだが、2メートル四方の内側の1メートル四方、ギエムの立つ空間は照明が、その動きが見える極限の暗さに落としてある。この狭い四角形の中心から、踊るギエムの体幹はほとんどブレない。

だが、だんだん動きは速く激しくなっていき、振りも大きくなり、中心の照明の落とされた空間からギエムの手先や腕、足先が、照明の当たる部分に出ると、まるで彼女の手や腕、足は踊る炎のように見えるのだ。生で見ていると時間の感覚というものがぶっ飛ぶくらい引き込まれる。5年前より、今回のほうが、凄かった。



この映像だとそう見えないけど、手足がほんとに燃えて見えたのだ。その踊る手足が暗闇を切り裂いていく、切り拓いていく。『ボレロ』も凄かったが、完成度的には『TWO』のほうが凄かったと思う。『TWO』のあと、休憩を挟んで『ボレロ』だったが、衝撃が凄すぎてこのままでは『ボレロ』を正面から受け止められないと感じ、席から離れてロビーで自分を取り戻す時間が必要だった。なぜか屈伸したりして。でも三階のロビーの窓辺には、うつろな目で一人でいる人が等間隔でいたので、わたし以外にもそういう人が何人かはいたと思う。

さて、『ボレロ』は封印したものを、かなりぎりぎりのところで踊っていると思われるところがあった。以前なら、髪の毛が邪魔になるほど顔に降りかからず、動きの反動で後ろ側に行っていてそのままだったのが、今回は残った髪の毛を払う動作がさしはさまれたりとか、それはほんとに些細な部分かもしれないけれど、ああ、これを踊る全盛期ではもうないんだな、と思うところが一度ではなかったので。



でも、それでもこの『ボレロ』で象徴的に自分を捧げるという踊りが必要だと直感して踊ってくれたこと、あと俯瞰でみていてあの赤い舞台がまさに今回のHOPE JAPAN 2011のポスターそのもの、つまり「rising sun」と重なり、ギエムがこの踊りをこの公演でチョイスした思いが言葉ではなく流れ込んできて、彼女から放射されるエネルギーに衝き動かされて、終わった瞬間、涙がどばーっと。顎まで流れる涙をそのままに、スタンディングオベーション。腕を上げて手を叩き続けてたので、肩も腕も痛くなったけど、拍手をやめられなかった。

そして、ツアー最後だったからか、お辞儀のほかに、ダンサー全員で手を振って、カーテンコール、そして鳴り止まない拍手にまた幕が上がり、が何度も繰り返され。「ありがとう シルヴィ HOPE JAPAN 2011」という幕を持った子たちが舞台を横断したりして、客席からもブラボーのほかに、「ありがとう」がたくさん聞こえていた。ほんとに、いろんな意味でありがたい舞台だった!

ところで近くに小さい女の子とその母が座っていたのだけど、その女の子の反応が凄く鮮やかで面白かった。幕が上がるまではしゃべっていたりしてお母さんに怒られてるんだけど(でもお母さんもパンフレットはあとで読めるんだから娘が楽しめるよう解説してあげてほしかった)、舞台が始まって『白の組曲』で男性ダンサーが高く舞うたびに前の手すりにかぶりついて見てた。でも休憩になるとずーっとしゃべってる、で、幕が開くとすごい集中して見てる。ちなみにどうもクラシックのほうが好きみたいで(まあ、この年頃の女の子はふつうはそうだw)、お母さんに見せてもらったパンフ見て「えー、福岡ではこれしかやんないのー?」と、コンテンポラリーばかりの演目にややご不満なよう。いや、キミは凄いものを見てるんだよー、と思いつつ、それがわかる年頃にはこの子はもうギエムのこれは生では見れないんだよなあ、と切なくなった。

さて、今週末は『エオンナガタ』。席がけっこう残っているみたいだけど、コンテンポラリーダンスが好きな人、とりかえばや物語とかトランスヴェスタイトに興味ある人は見るといいと思うよ。ギエムも40代後半に突入したし、ベストな状態で見られる機会は逃したくないものです。