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『リゴレット』@NHKホール

リゴレット』を最初に知ったのはリストのピアノ曲でした。リストだから当然、キラキラな曲調なわけで、オペラのリゴレットも『ロミオとジュリエット』みたいに悲劇とはいえキラキラなんだと思っていました。

だから、初めてオペラの『リゴレット』を全幕見た時には、かなりのショックだったなあ。キラキラとかないし(ちょっとはそう見えてたものも裏切られるし)、ラストは持てる者はそのまま、持たざる者はさらに惨めな状況に陥るし。それでもやっぱりヴェルディの歌曲は素晴らしいですね。

というわけで昨日、NHK会館での『リゴレット』を見に行ったのですが、一昨日の東京文化会館での『ファルスタッフ』からの不安が半分的中、半分は吹き飛ばされるような、ちぐはぐな観劇でした。

リゴレット』への不安は、(1)ジルダ役(「カリオストロの城」のクラリス+トマス・ハーディの「テス」的な役柄)が舞台写真で見るには乳母っぽいおばさん歌手、(2)マントヴァ公爵役(諸星あたる+「カリオストロの城」のロリコン伯爵的な役柄)が代役、(3)指揮者のドゥダメルは先日、ベルリン・フィルとのツァラトゥストラの録音を聞いたところ、個人的にコレジャナイ感を抱いてしまっている、(4) 台風が直撃っていうし、などがあったのですが、(1)(4)は問題なし、(3)もまあまあ、でも(2)は…、というところ。

というのもマントヴァ公爵というのはその権力と色男っぷりを存分に揮う、ドン・ジョヴァンニ的な、あるいは歌舞伎でいえば「色悪」の役柄なので、色気とか力強さとかが演技できてないとまったく説得力がないのですが、今回、もともとブッキングされていたのはさいきん売れっ子のジョセフ・カレヤ。

この歌いっぷりと色気でのマントヴァ公爵、楽しみだな〜と思っていたのですが、7月末になって差し替えのお知らせが。

http://www.nbs.or.jp/blog/scala2013/topmenu/2013.html

この時点ではわたしが見た昨日の公演の代役はまだ手配できていなかったようですが、実際にはカレヤのキャンセルは4月には決定していた模様。

http://keyaki.blog.so-net.ne.jp/2013-08-09

で、昨日の公演はジョルジョ・ベッルージさんという方だったのですが、冒頭から声が小さーい! 『リゴレット』といえばメロディだけでもよく知られている「女ごころの歌」を歌い上げられるのか、非常に不安な気持ちに。

対して今回、リゴレット役はレオ・ヌッチで絶好調、写真で残念感を持っていたジルダ役のマリア・アレハンドレスも、クラリス的な感じとは離れて、ハイジや『サウンド・オブ・ミュージック』のマリアのように、田舎の修道院でのびのび育ってしまったからこそ、都会でその無垢さが輝くという感じで予想外に良かっただけに、後半のリストがピアノ曲リゴレット」としてパラフレーズした四重唱でバランスが取れるのかも不安。

が、なぜかベッルージさん、「女ごころの歌」や四重唱は歌えていたんですよね。とはいっても、歌えていたっていうだけで、全体的な演技としてはまったく納得できなかったのですが、そこはヌッチとアレハンドレスが素晴らしかったので、なんとかもったというところ。ベッルージさん、もしかして「女ごころの歌」と四重奏までもたないから声を出し控えていたのかなー。

で、ベッルージさん、調べたら、30そこそこの、もともとローマ交響楽団のソロ・クラリネット奏者だった方とのこと。うーん、大ヌッチと同じ舞台で相対するような大役には力不足、キャリア不足なのでは…。

まあ、代役のことはおいといて、とにかくヌッチが凄かった! 娘を返してくれるよう、宮廷で懇願する絶唱には、話の筋がわかっていながら涙を誘われました。2幕の復讐を誓うリゴレットマントヴァ公への愛と許しを訴えるジルダの二重唱は、アンコールで歌ってくれたのはうれしいサプライズでした。台風のなか、来てくれた客席へのサービスだったのかな? ヌッチは幕が降りて挨拶に出てくるたびに客席に投げキッスしてました。家族は71歳というヌッチの年齢が信じられず、終演後、眼鏡を外してまで真剣にプロフィールを調べていたほど。

さて、グスターボ・ドゥダメルの指揮ですが、オペラっぽいというより、やはり交響楽的な感じ。ツァラトゥストラでも感じたのですが、彼の中では独自に「ため」を追求するのがマイブームになっているらしい。ツァラトゥストラではそれがどうもうまくいっていなくて、グルーヴに結びついておらず、ついカラヤンツァラトゥストラを聴き直してしまったのですが、『リゴレット』ではある意味劇伴なのもあり、さほど違和感を感じず。ただ、スカラ座オケが二度ほど出足が揃ってなかったり、音を外したりは気になりました。それも結局、ヌッチの絶唱が全部、回収していった、ヌッチ一人舞台の『リゴレット』でした。

でもって帰宅してからこのスカラ座引っ越し公演の豪華なパンフレットで誤植発見。


うーん、ちぐはぐ!