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『地獄でなぜ悪い』@目黒シネマ

ロードショーで見逃していた園子温監督の映画『地獄でなぜ悪い』を改装なった目黒シネマで。

ヤクザ映画、カンフー映画へのオマージュはもちろんのこと、『カリオストロの城』『マルホランド・ドライブ』のワンシーンを思わせるところもあり、映画にくわしい人が見たらもっともっと見覚えあるシーンが見つかりそう。

そしてキャストがすべて過剰かつどハマり。とくに女性たちは、岩井志麻子友近二階堂ふみ、その他その他、みんな熱湯に放り込んだらものすごい灰汁が浮いてきそうな濃さ。二階堂ふみは肘から先の筋肉とその動きも美しくて、うっとりします。

で、この映画、最後の手前までは痛快に見てたけど、撮れたフィルムを抱えて快哉を上げながら夜道を走るとこで泣けて泣けて。

映画を一度でも作ろうと思った人は、ここできっと泣くと思う。映画研究部にいた人が『桐島、部活やめるってよ』と続けて見たら号泣しそう、と言えば両方見た人にはわかってもら、えないかな。

このシーン、夜の道での疾走具合と、昭和座で死んだ敵味方も復活のフェリーニじみたシーンの挿入で揺さぶられ、『マルホランド・ドライブ』を思い出し、いつ脇からトラックが出てきてはねられるかとドキドキしてたら、監督の「カット」の声と同時に、画面は映画の魔法が解けて、観客席と地続きの「現実」に着地。

今まで映画の魔法が解けるラストシーンは『ホーリー・マウンテン』などでも見てきたけれど、こんなに幸福なそれは、初めて。だってこれって、「彼ら」がとうとう完成させた一本を見てるってことですよね? まさか園子温監督がこういう落とし方をしてくるとは思ってなかったので、不意打ちにまたググッと来ました。

さて、この日は園子温監督のトーク付き。二階堂ふみを起用した経緯や、ある意味『ヒミズ』が『地獄でなぜ悪い』の踏み切り板になった話、映画の強烈エピソードはほとんどが自分の実体験や友人の実体験だという話などをおもしろおかしく、20分の予定を大幅にはみ出して一時間。今年は映画の仕事が5本あるという監督のトークが終わって、ロビーに出たら監督本人が!

思わず「『地獄でなぜ悪い』の映画館でかかる映画で『部屋 THE ROOM』を見てうれしかったです。あの映画で監督を知りました」と話しかけたら「あっ、実は今年の5本の中の一つ、あれのリメイクなんです」と言われ、びっくりするやらうれしいやら。楽しみです、と言ったら、監督が右手を差し出してくれたので、握手して帰ってきました。監督の手は、女子のように柔らかかったです。

目黒シネマでは今週金曜の4月4日まで『ヒミズ』と二本立てで『地獄でなぜ悪い』上映中です。見逃していた方、ぜひ!