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シルヴィ・ギエム「ライフ・イン・プログレス」@東京文化会館

この日のギエムの公演、AdieuからByeに改題なった最後の演目、ステージ脇の壁に触れるギエムを見たら、これまでに東京文化会館で見たギエムの演目が激しくフラッシュバックして、気づいたら泣いてました。ダンスだけでなく、場所の魔力ってやっぱりあるなあ。五反田ゆうぽうとが閉館した悲しさもあってか、前橋のボレロでは泣かなかったのに、4年ぶりのByeにはやられました。

個々の演目は、In the middle は前橋の方が作品としてまとまってたなあ。今日はみじゅかタンと奈良さんが主に前に出てたけど、みじゅかタンは相変わらず踊りがシームレスじゃないんですよね……。シーン毎には普通かそれ以上に踊れているのに、シーンとシーンの繋がりが悪い。そして、そんな彼女のせいばかりではないだろうけど、全体練習足りてます? と言いたいほど、前橋組と比べて今日はまとまりがなかったなあ。

キリアン作品『ドリームタイム』は前橋も今日もよかった。今日の方がテクニックが光ってる部分が多かった気もします。まあなんにせよ、この作品は全員のテクニックがハイレベルじゃないと成立しない!

カーン作品『テクネ』は、まるでキリアン作品の主題をギエムが一人で踊っているかのようで、彼女の存在感とダンス+3人のミュージシャンの演奏だけで舞台が満たされるって、凄いなと改めて実感。

フォーサイス作品『デュオ2015』はタイトルに2015とあるので、フォーサイス自身もIn the middle が90年代っぽいってわかってるんだろうなあと。これも今日の2人のダンサーのスーパーテクニックあってこそ。ストリートバスケのように流動的で先の読めないダンスに、夫の人は「ずっと見ていたかった」そうです。

『ヒア・アンド・アフター』はマリファント振り付けの、女性2人のパ・ド・ドゥ! 『TWO』でのように、電子音楽と床面の照明切り替えが利いています。逆影踏みのように、照らされているところだけで踊るのかと思っていると、軽々とそれを裏切ったりと、このツアーでこのペアで踊るのが最後なのが残念すぎる演目。

そして最後の『Bye』。ギエムを衝き動かす好奇心、恐れ、踏み出させるもの、踏みとどまらせるもの、制限するもの、そしてまたどこかへ向かわせるものが、コミカルさを感じさせるまでに速いテンポのピアノ曲にのせて踊られる。合間合間にギエムならではの超絶技巧を挟みながら。

そして、途中でステージ脇の、オーケストラピットと舞台の間の壁にもたれかかり、立ち上がり、壁に手をつき、撫でる。ここで「そうだ、この壁がいちばん東京文化会館でのギエムを見てきたんだ」と感じてしまい、同時に東京文化会館で見てきたいろんなギエムの演目がフラッシュバックすると同時に、気づいたら涙が流れて泣いていました。

3階席でステージの音が上がって来やすいのもあり、軍靴みたいなトウシューズの音高い東京バレエ団を従えて、王子様に助けてもらわなくても大丈夫なんじゃ? とさえ思える力強い白鳥のしぐさも垣間見えたオデット、強い姉をやらなきゃいけない哀しみにじむ三人姉妹、見るたびに印象の違ったボレロ

いったん幕が降りて、また出てきたギエムに、前の方の席の人がお花やプレゼントを渡すのを見て、いいなー、と思いつつも、涙涙でした。