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霊長類ヒト科アゲアシトリ属ジュウバコツツキ目の妄想多め日録

ミラノ・スカラ座『ドン・キホーテ』@東京文化会館

セットも衣装も華やかだけど、やたらパステルカラーを使っての学芸会チックなものではなく、ダンサーもオールスカラ座キャストで舞台は素晴らしい。なのに、相変わらず日本側のオケがいまいち。なんですかその序盤のファゴットの濁った音は……。指揮者は中間管理職で板挾みでつらかろうな。

プロローグ、あまりに重苦しい雰囲気に、サンチョ・パンサさえもドン・キホーテの老人性妄想の中の人物だったらどうしよう、と思える切実さ。あと、当時は貴重品だったであろう本を暖炉に放り込むのはやめて宿の人!!! ここで先日、映画『ゴーストバスターズ』リメイク版の序盤のテニュアの件で胃のあたりをぐさっとやられた時のようなショックが。でもそのあと、サンチョ・パンサが宿の女性たちに追い回されて無事(?)、登場したのでほっとする。若い時はサンチョ・パンサはうざいだけだったのですが、自分が老いてくると彼の存在の重要度がよくわかります。

さて第一幕。ナポレオン式軍服の軍人たちや、シルクハットの紳士たち、ローマンカラーの昔懐かしい神父たちにモネの絵に出てくるようなシルエットのドレスの女性たちがいて、時代はドン・キホーテの頃よりずっと最近みたいに見える。こ、これはドン・キホーテ物語を読んで、自分がドン・キホーテだと思い込んだ老人の物語なのか?!

意外だったのはガマーシュがこの段階では明るいグリーンのフロックコート、明るいブルーの側線の入った白いパンツに、白地にグリーンとブルーのチェックのベストに明るいベージュの丸いシルエットの帽子と、相当な洒落男に描かれていること。髪形もまるで『ヴェニスに死す』のタジオみたい(この時点では)。パリ帰りかロンドン帰りか、みたいに洒落のめした、でもサンチョ・パンサに当たり散らしているという、まるで赤塚先生描くところのイヤミみたいな感じです。

そしてさすがスカラ座というべきか、憎たらしくなるほどに闘牛士のコール・ドがラテン的美男揃い。そして、とにかくモブがきっちり芝居をしまくるので、主役二人のいいところをうっかりすると見逃しそうになります。ドン・キホーテ、ガマーシュ、キトリ父をサンチョ・パンサが食欲からひっかきまわしたりと、超充実!

ところでわたしはこの作品のキトリとバジルはヤンキー的なカップルだと思っているのですが、今回は神父たちがキトリの振る舞いに「嗚呼、嘆かわしい!」と目を覆っているシーンがあり、「やっぱりそうだよね〜」などとほくそ笑みました。メルセデスエスパーダのパイセンたちとの関係も、ヤンキーっぽいなあと常々思っているのです。

さて、アマトリーチェ義援金を投入してから第二幕へ。

ロマの踊りがすさまじい迫力。とくに男性陣の力強い色気に圧倒されます。その後のドン・キホーテの夢のシーンは、舞台は素晴らしいのに、音が、問題再燃。よりにもよってドゥルネシア姫のソロでハープが音を外すわ、弱々しくて不安定だわ、リズムにさえ合ってないわで、コチェトコワ、よく影響されずに踊りきったって感じでした。ドン・キホーテの高潔さに泣ける雰囲気、まったくなし! もうスカラ座オケ演奏のテープにしてほしい。

ちなみにこの日のキトリはコチェトコワでしたが、彼女の終演後のインスタグラムの写真は、演奏にうんざりしてるようにも見える感慨深いものです。コチェトコワの終演後のこの脱力倒れ込みインスタは恒例ですが、いつもは一人で写っているのですよ。ところがこの夜のこれは、もの問いたげなバジル役のワシリーエフと一緒。二人ともロシア人ですし、言外のメッセージをつい、考えてしまいます。 https://www.instagram.com/p/BKzVdM-gH53/

現実に戻っての、バジルの狂言自殺のシーンはセットの工夫が素晴らしい。第一幕のセットに風車のシーンのセット、その他を組み合わせて、まったく違う街角みたいにしているのがすごい。そしてここでも、バジルやキトリ、仲間たちの振る舞いはヤンキーっぽいのでした。

第三幕は、カツラだったことを暴露されたガマーシュが、開き直って結婚式の余興を即興でやるシーンに救われます。彼もヤンキー女子のキトリじゃなくて、話の合いそうな文系女子と出会えたらいいのにね。

とか思いつつ、今日も終演後はコンコンブルでがっつり食べました。なんとずっとフォアグラメニューのなかったコンコンブルで、フォアグラのテリーヌ発見! 前菜盛り合わせに、これまた大好きな人参のラペと入れてもらいました。時計回りに、人参のラペ、フォアグラのテリーヌ、鶏レバーのムース、砂肝のコンフィ、鰊か鯖の酢漬け、キャベツのサラダ。5種盛りのはずなんだけど、なんかサービスしてくれた。

そして興味を抑え切れず野菜のパフェ。ビーツとベリー(スグリかなにか)のソースを底に、かなりゆるいマッシュポテト、アボカドのディップの上に生野菜。

メインはにんにくとローズマリーの香るコンコンブル風ローストビーフ。お好みで、と出された赤唐辛子のブランデー漬けの香りが素晴らしい! 辛いの苦手なので、ちょっとしかかけられなかったけど。