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海と毒薬と日大アメフト部

昨日、二十二日は休みだったので、繋いでいた端末で日大アメフト部選手の記者会見を見ていた。

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そして町山智浩さんのラジオ番組での発言を読んで、何かに似ているなあ、と思った。

町山智浩)ヤクザも世界中全部そうです。マフィアも全部そうです。「あいつをどういう風に殺せ」とは言わないんですよ。「あいつがいなくなったら、お前もなかなかな、いい位置につけてやるけどな」って言うんですよ。そうすると「私が行きます!」ってなるんですよ。これは教唆にならないようなギリギリのところなんですよ。

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わたしが思い出したそれは、ヤクザ映画ではなく、遠藤周作の『海と毒薬』だ。この作品には第二次世界大戦中に実際に起きた米軍捕虜生体解剖事件にかかわった「下っ端」の心理が書かれている。病院内では下っ端だとはいっても地域ではエリートで、病院のなかでどう昇格していくかを模索する、対照的な医師ふたりの話だ。そのうちメインとなる勝呂医師の、人を生かすはずの自分が雰囲気に流されて、生体解剖という殺人にかかわってしまった悔恨に落ち込むところで作品は終わりを迎える。

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九州大学生体解剖事件――70年目の真実

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勝呂医師がもっと若かったら、生体解剖という殺人にかかわったあとに、反則プレーを強いられた日大アメフト部選手が退場を命じられたあとのように、号泣したかもしれない。

日大の選手は、退場後に泣いていたことについて「優しすぎるところがダメなんだ。相手に悪いと思ったんやろ」と責められたというが、選手は被害を受けた選手への申し訳なさもさることながら、スポーツマンとしての自分、アメフトへの愛を、自分で殺してしまったことで号泣したのではないだろうか。

彼が号泣したときには同じポジションの選手がそばにいてくれていて、後日「もうアメフトをやりたくない」と伝えた先輩も「そうだよな」と応じてくれたのは、不幸中の幸いだったと思う。

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『海と毒薬』は冒頭、人間らしさを抜き取られ、暗い淵に沈んだような勝呂医師の描写から始まり、なぜ彼がそうなったかが描かれる。日大アメフト部の選手はやってしまったことは消えないとはいえ、被害を受けた選手が致命傷を受けていなかったことと、寄り添う仲間がいたこともあって、勝呂医師の沈んだ淵にまでは陥らないですみ、それが自分の言葉での記者会見に臨む勇気に繋がったのだと思う。

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なお、『海と毒薬』で勝呂医師のそばにいたのは、現代でならサイコパスと呼ばれそうな、それこそ「優しすぎるところがダメなんだ」に類する台詞もある同年代の医師だった。小説とはいえなかなかつらい人間関係である。

 

 

 

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