寿司と肉とチベット人
先日、テンジン・デレク・リンポチェ顕彰「勇気のメダル」賞授与式の帰り、チベット人三人、日本人三人で回転寿司に行った。
すると、日本人と結婚して、日本で育てた息子が大学生になった一人のチベット人Aが、「回転寿司って、初めて〜」と、キャッキャして言うので驚いた。もう一人の既婚で日本で子どもと暮らしているチベット人Bも、「ええ? 子どもと行ったりしないの?」と驚いている。
なら、大丈夫そうなものをなるべくいろいろ食べてもらおうとする我々。なお、あとでチベット人Aが「カウンターのお寿司に銀座で行ったことはある〜」と言ったことにより、チベット人Cが「ジロー(すきやばし次郎)じゃないだろうね?!」と気色ばむ場面も。なお、気色ばんだ彼によると、Netflixで見た「すきやばし次郎」のドキュメンタリーに感心しきりで、いつか行きたい! と思っているそう。
さいわい、注文用のタッチパネルは多言語対応なので、英語セレクト。だがそこで、子どもと回転寿司によく行くというチベット人Bがニヤニヤして言った。
「英語メニューで説明されても、チベット人にとっては魚はどれもこれも全部『ニャ』だからねー」
そうなのだ、たいていのチベット人は魚を食べる習慣がないので魚をいろいろ呼び分ける習慣がないのだ。それでも烏賊、蛸あたりは食感がダメだろう、ツナ(っていうか鮪)とサーモンなら大丈夫というので頼んでみたり。そしてチベット人にとっては、イクラなどの魚卵、シラスなどはもってのほかである。というのも、チベット仏教の考え方からすると、生命体一つに魂が一つ宿っているので、魚卵やシラスなどは一度に大量に命を消費するけしからん食べ物なのだ。
と、そこで生の馬肉寿司や、ローストビーフ寿司なるものを発見。肉好きなチベット人、これはイケるのでは? と勧めてみたところ、チベット人A、
「いや、完全に火が通ってない肉は、ちょっと……」
とのこと。Aに限らずチベット人にとって肉とは、ちゃんと焼いてあるか(炒め物とか)、ちゃんと茹でてあるか(チベットの肉うどんとか羊の塩煮とか)、ちゃんと蒸してあるか(チベット餃子といわれるモモとか)、ちゃんと干してあるか(チベット高原の寒さと強い紫外線で乾かしきった肉とか)じゃないと不安で食べられないそう。
寿司を愛する日本人が、寿司はいろんなテクニックで生肉でも安全に食べられるようになってるんだよ、と力説するも、
「あの、火の通ってない『くにゅ』って食感がダメなんだよね〜」
とのことでした。いやあ、あの「くにゅ」がいいんだけどなあ。
ちなみにこの日のチベット人のみんなは、山葵はOK、というかむしろ好きだそうです。