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読書妄想『こんな雨の日に 映画「真実」をめぐるいくつかのこと』

読書しているときに、本題とはたぶんあんまり関係ない寄り道的なエピソードに引っかかって、そこから妄想が始まることがよくある。えっ? 読書中だけじゃないだろうって? ええ、まあ、そうですね。

 

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たとえば道を歩いていてふと見かけた進学塾のこの窓には、BL好きとして理系メガネ東大生の登場するなにかを妄想しかけたりするし。

 

 

話がそれた。読書中の妄想についてである。映画『真実』がとてもよかったので、どのように制作されたのか知りたくなって、是枝裕和『こんな雨の日に 映画「真実」をめぐるいくつかのこと』を読み始めたのだが、このページのフランス人女性の意地の張り合いに、ふと30年近く昔のパリの風景を思い出したのに、それは端を発する。

 

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これに似たようなその出来事は、旅先からエアメールで葉書を送ったらさぞかし素敵であろうと、フランス旅行中に一角獣のタペストリーで有名な美術館で買った葉書にたわいもないことを書いて、郵便局の窓口に行った際のことである。

窓口に並んでいると、自分の並んでいる窓口の中と、その隣の窓口の中にいるご婦人が険呑な雰囲気で喋り始めた。その険呑度がどんどん高くなってくる。だが、並んでいる列は遅々として進まない。

そうするうちに、窓口内のご婦人二人は申し合わせたかのように、窓口内の鎧戸みたいのをガラガラ閉めてしまったのである。口論は続いている。並んでいた地元人らしきほかの人たちは「あ〜あ、解散解散」という感じで帰って行った。

わたしは「えっ、日本の郵便局みたいに、ほかの空いてる窓口の人が業務を引き継いだりしないの?」と思ったが、そういう気配はない。

まあ、日本で窓口が営業時間内に閉まるにしても、口論が原因で、ということはないだろうし、たとえば職員が貧血で倒れたとか、窓口が一時的に閉まることへの納得感が伴うと思う。そして奥に座っている局長さんが前に出てきて欠員を埋めたり、お客さんの並んでいない金融業務の職員が郵便業務に回ってきたりすると思う。

が、パリの郵便局ではそういう気配はまったくなく、口論しているご婦人以外はそれまでの業務をただ淡々とこなしていた。

 

エアメール封筒/エアメール AIR MAIL 洋4封筒/洋4 定形 100枚 【41】

 

そのときのことをいま思い出し妄想するに、まわりの窓口の人たちがたとえ手が空いていたとしても、下手にあのご婦人の仕事を引き継ごうとしたら、とばっちりで口論に巻き込まれてしまうのかもしれない。

あるいはそれぞれのやる仕事がヨーロッパらしく厳然と決まっていて、手を出すのは却って規則違反に繋がりかねないのかもしれない。

それにしても、あのご婦人二人は、窓口を閉めるほどのどんな口論を繰り広げていたのだろうか。もとからそりが合わない二人で、ほんの少しのことがいつも諍いのタネになっていて、まわりも常連さんも先刻承知なのだろうか。

「ちょっと! あんたの書類がこっちにはみ出てるんだけど!」

「わたしの書類じゃありませ〜ん。お客の書類ですう〜」

「そういうこと言ってんじゃないのよ! あんたの管轄する書類って意味でしょ!」

「あ〜ヤダヤダ、書類がほんの5ミリはみ出てたって、切手売ったりスタンプ押すのに関係ないですよね〜?」

「なんですってぇ? あんたね、前々から言おうと思ってたけど、だらしなさすぎるのよ!」

「そのだらしない女にふられてメソメソしてるような息子がいるそっちはどうなんですかね〜」

「キィー! 今日という今日は我慢ならないわ!」(鎧戸に手を掛ける)

「仕事場で私情を振り撒かないでくれますう〜?」(というわりにこっちも鎧戸に手を掛ける)

みたいな。まあでも窓口であのフランス特有の数の数え方で仕事してたら、イライラしやすくもなるよね、きっと。

ねにもつタイプ (ちくま文庫)

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