ひとときたりともとりこぼせない舞台『エレファント・バニッシュ』
セリフが聞き漏らしそうに大量なわけでも、難解なわけでもない。村上作品の、誰でもわかる平易な言葉によるセリフが話されているステージでした。
でも、舞台の上で俳優達が動くたび、村上作品の、あのシンプルな言葉の列の間から仄見える、不安やほほえましさが、むせるほどの空気感となって溢れかえるのです。その空気は、次の瞬間には、役者のどんな動きで作り出されるのか、まったく想像がつきません。
それが、この演目の上演中、ひと時たりとも取りこぼせないと感じさせるのです。
村上春樹が好きな人、とくに、「象の消滅」「パン屋再襲撃」「眠り」が好きな人は、ぜひ、このサイモン・マクバーニー演出の『エレファント・バニッシュ』を観に行ってください。
イギリス人の演出家に、ここまで村上作品をわかられていいのか? という驚きとともに、村上作品世界の空間化に浸ることができます。