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霊長類ヒト科アゲアシトリ属ジュウバコツツキ目の妄想多め日録

美容室のサロメ

幼稚園に入るか入らないかあたりから小学5年まで、麹町の大関早苗美容室に通っていた。斜め向かいのベーカリー・神戸ベル(現在はエクセルシオールカフェになっている)から下り坂になる地形の関連上、半地下状の店舗で、かつ地下鉄の出口脇、黒蜥蜴やリュパン、ホームズなどを好んで読んでいた身としては、通うのがなかなか楽しい場所ではあった。


その美容室には大判のビアズレーのポスターが何枚か額装されて飾られていた。そのうち二枚はサロメを主題にしたものだったのだが、なぜかわたしはそれを中近東の年老いた魔女だとずっと(少なくとも小学4年あたりまで)思い込んでいた。あるいはホラ話をだれか大人に吹き込まれて信じていたたのかもしれない。



理由としては、頭にターバンを巻いたようなスタイルと、そのターバンのようなかぶりものを取った髪形がおばちゃんパーマライクなものだったこと、そして朱赤と黒の二色刷が当時のわたしにそちら方面の絨毯を想起させたからだ。それになんといってもサロメといえば若い美人のイメージがあったので、皿に載った男の首を眺めるイスラムの老女のようなおばちゃんパーマと、何度も読んだサロメとは到底、結びつかなかった。ヨカナーンの生首を前にしたそのビアズレーの絵に関しては、息子を殺した敵の首を前に積年の思いをたぎらせている老魔女なのではないかと思っていたくらいだ(ちなみにサロメ以外の絵は毒杯をあおるイゾルデだったのだが、これに関しても敵に毒を盛る女スパイの絵だと思っていた)。



そしてわたしは実をいうといまだにビアズレーのサロメサロメに見えない。若い娘にも見えない。むしろ策士だったらしいサロメの母のように怖い。まあサロメだってそんな母の娘なわけだから、ヘロデに殺されてなければ政治に寝室から介入する傑女になってそうだけど。ちなみに絵画でのサロメなら、ラ・ロシュフーコー街の自宅だった建物がそのまま個人美術館になったところにまで行ったことのあるギュスターヴ・モロー、映画でのサロメならケン・ラッセルサロメが一番しっくり来る。と、なぜ急にこんなことを書き出したかというと、近所の繁華街に大関早苗美容室の支店があるのを知ったからである。若者の街なので、ビアズレーの絵は飾っていないとは思うけれども。