読んだり食べたり書き付けたり

霊長類ヒト科アゲアシトリ属ジュウバコツツキ目の妄想多め日録

『猫にかまけて』

叱られているのである。叱責され続けているのである。作家としての町田康から入ったひとにとっては「はは、さもありなん」という光景かもしれないが、自我形成期にパンク歌手・町田町蔵のほうから知った身としては、彼が飼い猫に斯様に扱われ続けている「猫日記のようなもの」を読んでいると、やはり奇妙な気分がする。
とはいえ、これも町田康の作品の延長として考えれば、猫に虐げられるダメ男に関する一人称の小説なのであって、そのつもりで読んでいたら、猫の死、という場面でフィクションを突き破る筆致が突如、表れた。そのせいで、わたしは前半部を泣きながら読了。愛する猫の死に際しては、さしもの小説家も、ほとんど経過報告しかできなくなっていたのであった。
それにしても、「あなたなんのために生きているのよ!」である。たしかに言っている。うちの猫も言っている(さすがにマチダ家のココアさまのように「そんなんじゃ生きてる意味ないじゃん」とまでは言わないけど)。主に妙齢の女子猫がそう言っている気がする。
そういえば、星新一のショート・ショートにも、そのような場面があった。地球を偵察に来た宇宙人に、「このにんげんという生き物は、わたくしたち猫にミルクを供するために、牧場で牛を飼っているのです」とかいう、地球を平和に統治する王族としての猫が。