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伝統・革新・流行

カカオ中毒者にとって、夏というのは忍耐の時期である。コンビニやスーパーに並ぶカカオ製品の種類は激減、「板チョコがなければチョコレートアイスがあるじゃないの」と唆されるも、やはりそれは一時凌ぎにしか過ぎない。

と、思っていたが、しかし、どうやらカカオ業界は、高温多湿な日本の夏に攻勢をかけているようなのである。以前からひっそりと、しかししっかりと存在を主張しているゴディバのチョコレートアイスに始まり、ピエール・マルコリーニのチョコレートアイス、デカダンス・デュ・ショコラのカカオ分60%を超えるチョコレートアイスなどなどがそれである。

が、昨日はそのどれでもなく、銀座松坂屋のミシェル・ショーダンに、当店舗限定商品であるという「ショコラ・アン・エテ(パッションフルーツ)」を食しに。当初、情報の採り間違いにより、これをアイスドリンクだと思っており、店頭で見てもその姿から、そのように捉えていたところ、じつはチョコレートムースとパッションフルーツのジュレのデザートであったことが判明。集まった同行者のうち、50%が、いきなりここでアイスドリンクを別に頼み、さらにこのチョコレートムースを頼むという豪気な選択を見せた。

さて、この商品は姉妹品に「フランボワーズ」があったのであるが、そちらを連れに分けてもらった結果、「伝統の味というのはそうそう崩れるものではない」と、その安定感あるカカオとフランボワーズのコンビネーションに確信を抱いた。

では、「パッションフルーツ」のほうはどうかというと。驚きはあるのだが、カカオとパッションフルーツが融和しているかというと、このコンビネーションの受け手の問題かもしれないが、やはり「フランボワーズ」にはかなうべくもないのであった。

ちなみに、カカオとパッションフルーツのコンビネーションは、こうしたブランド・カカオ店以外でも、ここ最近試みられている。キットカットのパティシエ・タカギプロデュースものだとか、ブルボンのビットチョコレートのものだとか。

じつは、味のなじみ具合という点では、ミシェル・ショーダンの新鮮なパッションフルーツを使用し、新鮮なまま出される「ショコラ・アン・エテ」よりは、コンビニに並んだキットカットやビットのほうが、パッションフルーツのエッセンスをカカオにまとわせる、という手法で成功しているように思われるのである。

ただ、それでもやはり、パッションフルーツの「ショコラ・アン・エテ」は美味であった。カカオ分70%のムースのこくとふんわり感の両立に、酸味と種の歯ざわりで闖入するパッションフルーツ。この強烈な素材に強烈なコンビネーションは、まことに、すべてが過剰な夏にこそふさわしい。