読んだり食べたり書き付けたり

霊長類ヒト科アゲアシトリ属ジュウバコツツキ目の妄想多め日録

ある一点を除いては、

美輪さまの言うとおり、パーフェクトな出来映え。

まず、150分の上映時間の長さを感じさせない出色の脚本。横尾忠則が言うように、撮影&編集が秀逸。百人一首の札の裏から指への照り返しで金箔張りだと見てとらせる、また、蝋燭の明かりで食事する本多一家のシーンなどでの照明に驚嘆。大理石の暖炉の縁までが効果的な背景やロケーションの確かさ。洋装、軍服、着物の、それらしさ、だけにとどまらない美麗さ。主役ふたりの脇を固めるキャストの豪華さ(若尾文子岸田今日子大楠道代などなど!)。

ああ、なのに、なぜ、なぜに清顕が妻夫木某…

冒頭、映画全編の最初の本多が清顕を賞賛するせりふ、「きみはそんなに完璧なのに、それ以上なにを求めるんだい?」が、いきなり納得できません。

いや、だって、どう見ても、あなた、この広大な庭を整備する庭師の息子でしょ、その犬っぽい顔立ちは。それともこのキャスティングは、清顕×聡子、ではなく本多×清顕が主体のものなのだろうか、とさえ勘ぐってしまいます。あるいは清顕は、庭師と奥様のあいだの子で、学習院で岡野『陰陽師』の博雅みたいな本多と出会って、とかそういう…

とはいえ、妻夫木某のすべてが悪いわけではなく、いや、むしろ顔のタイプが清顕のイメージに合っていないだけで、演技がたしかなだけに、よけい、惜しい。

のどが荒れていたために、ときどきのど飴を取り出すために下を向いたのですが、その際に声だけ聞いていると、妻夫木某の演技はかなり良いのです。月修寺近くの宿で、熱に浮かされながら聡子を求めて布団からにじり出るあたりの演技も、本多×清顕であれば、どれだけはまることか…

ところで衣装、聡子の着物姿で、衿の開き(抜き、ではなく)ってあんなでもいいんだ、と、帯近くでようやく合わさっているみたいな様子に、やや違和感でした。いつも文庫なのはかわいかったけど。あと、長襦袢半襟がきちんとつけてあってうらやましいな〜、あれはやっぱり蓼科か女中がやるのかしら、とか思ったり。