読んだり食べたり書き付けたり

霊長類ヒト科アゲアシトリ属ジュウバコツツキ目の妄想多め日録

『tiny shoes』福田さかえイラストレーション展@tray学芸大学

仕事帰りに、見に行くのを楽しみにしていた福田さかえさん*1の個展会場へ。オープニングパーティにはずいぶんたくさんのお客様が見えていて、彼女のイラストと人柄の魅力とを再認識。飲み物は、お酒や冷たいお茶のほかに菊花茶まで飲めるよう準備されていたので、作品の雰囲気にぴったりのそれをいただきながら、ギャラリーのなかをめぐる。


学芸大学のギャラリーTray*2の壁は、小さな足の小さな女の子たちばかりにぐるりと取り巻かれていて(その数、107人!)、ほぼ実物大で描かれている彼女達のための靴は、スタイルブックの1ページのよう。見ているうちに、エロスのために残虐に形作られたこの纏足たちがいちどきに動き出したら、その足音はどんなものなのだろう、と妄想する。いちどきに走り寄って来るときは、マドレーヌちゃんとお友だちとシスターみたいに整然とお出かけするときは、なにかに驚かされて必死で走っているときは…


そういう妄想が、自宅に帰ってからも楽しめる小冊子も出ていたので買い求める。うわさには聞いていたけど、執筆陣がカトリック系全寮制女子校のようです。畑菜穂子さん*3、中野もえぎさん*4山崎まどかさん*5平山亜佐子さん*6と男子禁制の香り芬々たる面々の作品が、美麗イラストに彩られて、チョコレートボックスの中の薄紙のようなすてきな紙に印刷されています。ちなみに上の写真で左上の開いているものがそれ。その右側のピンクのリボンをつけた女の子が表紙です。個展は11月4日の火曜日までなので、手に入れたい方はお早めに!


ところで作品のなかには、纏足に加えて、中国のまた別の残酷な奇習「盲妹」を思わせるものもありました。それぞれの三つ編みがおとなりの纏足少女のそれと編み合わされて、9人が横一列に髪の毛で繋がれている作品が、それ。

広東(カントン)に盲妹(もうまい)という芸者があるということだが、盲妹というのは、顔立の綺麗な女子を小さいうちに盲にして特別の教養、踊りや音楽などを仕込むのだそうである。支那人のやることは、あくどいが、徹底している。どうせ愛玩用として人工的につくりあげるつもりなら、これもよかろう。盲にするとは凝(こ)った話だ。ちと、あくどいが、不思議な色気が、考えてみても、感じられる。舞妓は甚だ人工的な加工品に見えながら、人工の妙味がないのである。娘にして娘の羞恥がない以上、自然の妙味もないのである。(坂口安吾 「日本文化私観」の二 俗悪に就て(人間は人間を))

盲妹たちは三つ編みを長く垂らして一列に並んで、前の盲妹のそのお下げを握って、一列に歩くことがあったといいます。それがなにかのお祭りの行列なのか、それとも日常生活でのことなのかはわからないけれど、さかえさんの描いた、三つ編みに繋がれた少女たちは、お互いのお下げに頼って歩く盲妹を思い起こさせるのです。


ちなみに坂口安吾の引用では、盲妹には「特別の教養、踊りや音楽などを仕込む」となっていますが、盲妹は舞妓や纏足をほどこされる少女とは違って、はっきりと娼婦の一形態なので、本来的にはなにが「仕込まれる」のかは推して知るべし。


それにしても、纏足といい盲妹といい、奇形をわざわざ作り出して、その不自由の中にまだ見ぬエロスを醸成するというのは、食のためなら机以外の4本脚はみな食べる、などといわれる中国のひとたちならではだわー、と思わされます。


そうそう、会場の芳名帳の横には、原寸大の纏足靴がふたつ、展示してあります。あんまり小さいので、ミニチュアかと思ったのですが… ギャラリーに行かれる方は、ぜひ手の上にのせて、その小ささに驚嘆してほしいです。