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霊長類ヒト科アゲアシトリ属ジュウバコツツキ目の妄想多め日録

ふたりジャネット (奇想コレクション)夜更けのエントロピー (奇想コレクション)同時に買った、同じ奇想コレクションのシリーズの『ふたりジャネット (奇想コレクション)』がすいすい読めてしまったのに比べて、この『夜更けのエントロピー (奇想コレクション)』は読了にえらく時間がかかった。『ふたり〜』が暖色系のカバーでこちらが寒色系のカバーなのが表しているかのように、この二冊、対照的な読後感。

『ふたり〜』のほうは一般的なアメリカのイメージに含まれる明るい、ややもすればノーテンキな空気を湛えたテンポのいい作品が連なっているのに対して、『夜更けのエントロピー』は一般的なアメリカンイメージが持っている閉塞感や喪失感、暗さをたっぷり含んだ作品が多く、そうすらすらとは読み進められなかったのだ。

でも、一作一作読み進めていくと、その暗い、湿った空気感が、著者のひとや人生への期待せずにはいられない愛情、たとえ愛する対象が眼前から失われても愛さずにはいられない、というやりきれなさからきていることがわかってくる。

これは章立てと翻訳の秀逸さも一役買っていて、さまざまな章を受賞した「最後のクラス写真」と、それに続くラストの「バンコクに死す」というこの短編集の大詰めでは、読み始めのころから重なってきた、著者の世界への思いに対するかすかな共感が一気に充足された。

ラスト二作をここに配置したことと、この日本語タイトルにしたセンスは素晴らしい。ラストの作品はとくに、あの有名映画と重ね合わせて読むと、主人公の口惜しさ、切なさ、なげやりさ加減が重層的に迫ってくる。

じわり、とした切ない読後感を味わいたいひとにおすすめ。