バロックなお花見 - 読んだり食べたり書き付けたり

あさごはんはオレンジ・ピールと紅茶葉のベーグル、プチトマト、クリームチーズ入りオムレツ。黄金色の太った三日月型にたまごが焼けていくさまは、いつ見てもしあわせな気分になる。
今日は花粉などのアレルギー血液検査結果を聞くのと、やはりかなり薬の副作用が眠いのでクリニックへ。この角曲がればクリニックの通り、というとこで歯のクリーニングにどれくらい行っているかというカメラアンケート。
40秒くらいで終わるとはいえ、顔さらすんだから、謝礼はともかく媒体名くらい出せー、とか思う。で、意地悪心から、ほんとは行ってないけど希望としての「三ヶ月に一回」と嘘回答。どこの制作かしらないけど、ちゃんと名乗りもせず何で使うとも明らかにしないと、こういうふうにアンケートの精度が落ちていくのだよふはは。
ちなみに、三ヶ月に一回、歯のクリーニングに行っているように見える歯を作っているのはデンターシステマの歯ブラシとオーラ2エッセンスインペースト。もうほかの歯ブラシと歯磨きは当分、使えません。

さてクリニックでは眠気と口の渇きが改善されるであろう薬に切り替えてもらい、待ち合わせの地下鉄ホームへ。そして浅草へ。アンティークのくどい枇杷柄の着物や、かつら屋の銜え煙草なジュリーあるいは美輪明宏に目を奪われたり。前の晩、『タイガー＆ドラゴン』を見てのこの道程なので、なんだか奇妙な感じ。
おひるごはんは目的地への途中でくじら定食。竜田揚げがやわらかく、おうどんのトッピングの皮さらしははりはりとして、満足。

たどり着いた花やしきでは、敷地が狭いところにぎゅう詰めにアトラクションが押し込まれているが故のフリーキーが生み出した迷路に惑う。乗り心地の悪さが売りになっているローラーコースターで、大遊園地のジェットコースターとは対極の怖さを体験し、離陸する際の揺れがもはや最新鋭の遊具ではありえない怖さをもたらす吊り展望箱から浅草寺を眺め、すぐ隣に病院がある合理的な風景に感嘆。そして、桜に石灯籠に金の擬宝珠に朱塗りの橋に滝に錦鯉というジオラマ部品展示例のような庭にも。が、やはり狭いものは狭い。それらが終わると身の置き所なく、浅草寺へ向かう。

浅草寺ではそうとうな外人客の多さなのに、立て札などに英語併記なく、花やしきのローラーコースターと同じく、それさえ旅情を掻き立てる装置か、などと妄想。しかし、板碑などの遺物の梵字解説もないのを見て、その妄念も打ち破れる。

ごったがえす表参道を抜け、水上バス乗り場。ヒミコ限定Ｔシャツは、売店にＳサイズしかなく、ほかは「ヒミコ船内の売店で」という商魂に中てられた頬を、水上バステラスで川風にさらしながら浜離宮へ。蔵前橋とか水上消防署とか、英語解説がばっさり省略、あるいはすっぽり抜けてる橋や風景があり、左脳で経験を咀嚼するタイプの観光客には、この「風景」はどのように記憶されるのだろうなあ、と考えるうちに着いた浜離宮は、接岸の時点ですでに和やかな春の小山。

枝垂桜と八重桜を中心に開花する時期なのと、借景が汐留の超高層ビル群や虎ノ門の双子の筍ビルなのとで、ゴージャスにしてバロックな雰囲気のお花見に。マリー・アントワネットのごとき貴族気分。元ロイヤル・ガーデンを逍遥しているのが平民で、花に八重が多いだけに薔薇改良のパトロン、ジョセフィーヌ的とでも言うべきか。
夕暮れ迫る庭園で、300年の松の、チューブをたくさん繋いでいるかのごとき威容を見てから『真夜中の弥次さん喜多さん *1』を見に行くも、立ち見と言われてあっさり延期。洋服買いに付き合って、まんまと好みのネクタイなど買わせた後、屋上掘っ立て小屋カフェで虫養いし、旧オ・コション・ローズ*2でばんごはん。
黙って座っていても、一発でぴたりと好みのワインが出てくる驚異。まず連れとめいめい別のシャンパーニュをグラスで。わたしのは一口めから後味まで甘味を感じないドライな一杯、連れのはあとくちにかすかに甘味がかすめる。野菜と鮮魚中心の前菜で勧められたグラスの白もミラクル。香りは甘く華やかに、飲み口はドライに。否が応にも食欲を昂進させる。メインで選んだポイヤックの'97は、強くスパイシーな香りを心地よく裏切る穏やかさで、茸を詰めた鶏股肉の意外に強い塩加減をおおらかに供応。
そんなこんなで、パンとバターがおいしすぎたのもあり進みすぎ、デザートまでたどり着けない無念と口福の渦に巻かれて帰宅。