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[踊素]シルヴィ・ギエムの「愛の物語」〈Bプロ〉

東京文化会館は、上階の席になるほど一階席にふとしたはずみで落ちそうな、高所恐怖が増す造り。わたしは高所恐怖愛好症なので、本日のオケピが見える最上階の席は愉し。写真は開演10分前のオケピ。閑散としてるように見えますが、ティンパニにスネア、バイオリンあたりが音出ししてます。ちなみに最初の演目はピアノ伴奏だけなので、オケピががらがらだったのでした。

観たのはギエムの『三人姉妹』『田園の出来事』、彼女がプロデュースしている『カルメン』。『三人姉妹』は等身大の侘しい感じ、『田園の出来事』は華やかな恋情のあとの空虚が迫ってくる舞台。

前者は舞台設計が秀逸、衣装は役柄にフィットした、いわゆるバレエっぽいものをあまり感じさせない日常的な、でもやっぱりすてきなデザイン。

後者は舞台設計もドレスも振り付けもダンスも、すべてが豪奢。あ、えっと日本人ダンサーの金髪カツラ姿がいまいち浮いてたのは点睛を欠いてましたが。

ロシア貴族の夏の別荘とその庭園、居間の床のデザインと、その上でのその図形との組み合わせの妙が楽しめる振り付け。クリーム色と薄い水色を基調にデザインされた、夏の涼やかさを思わせる贅沢な衣装。

そして、貴族の若奥様でありながら、養女の家庭教師と恋に落ちる役柄に活きる、ギエムのどこか少女っぽい潔癖さが見え隠れする表情! DVDで単独でアップにて撮られた彼女を見ていると、どうしてもテクニックに目を奪われるのですが、やはりトータルな舞台で見ると、テクニックが完全に演技に活かされている、という当たり前のことに、見終わってから気付きます。

        

ちなみに『カルメン』は、あふれるほどの色気が必要なはずなのに、「テクニックは、すごいですね」という感じで、表現されるべき好戦的なエロスがどうも持続しないのと、ビゼーの元ネタを下手にいじった楽曲で、観るための集中力を持続させるのにいささかパワーが要りました。

というか、前の席の方が着物で、後ろの席の人間としてはかなり観難かった、というのもあるのですが。各階とは言わないけど、天井桟敷一列目の方は、後列のために着物での観劇は控えていただきたいものです。あるいは着物で気張って出張ってくるにふさわしい席をお取りいただきたい。

それにしても『カルメン』、ギエムが踊っていたら、どうだったのかなあ。テクニックで圧倒して支配する、という演技になるような気もしますが。

パンフレット表紙は、こちらの『マルグリットとアルマン (椿姫) [DVD]』から。うーん、これもやっぱり舞台で観たくなってきた。だって、美術と衣装がセシル・ビートン