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霊長類ヒト科アゲアシトリ属ジュウバコツツキ目の妄想多め日録

経験と熱情という道具

ところでオヤジとモテといえば、回を重ねるごとに、芸達者なおっさんキャストがすてきに見えてくる『タイガー&ドラゴン』。とくに昨日の第4話「権助提灯」はおっさんふたりが俎上に上げられ、大フィーチャーされてて、おもしろかったなあ。おもしろかったっていう内訳は、「おとなオトナって言ったって、大人だからなにが変わるってんだ」というところが暴露されちゃってること。
師匠が小虎に、「おまえさん、人間がわかってないねぇ」と説教するときに、「年取って丸くなるなんていうけど、そんななぁウソ。体力はなくなってくるし、残り時間は少なくなってくるし、焦りは出るし。丸くなるのは外見ばっかりだぁね」みたいなことを語るけど、それがわかるってことが落語という芸に磨きをかけるのだろう。
年取って、丸くなったように見えるのは、単にいちいちつっかかってくだけの体力がなくなってきたってことも大いにあるし、狡猾な振る舞いっぷりを学習しただけかもしれない。というか、ほんとに加齢に伴う経験によって丸くなるなんてのは一握りで、もともと人間の出来てる丸いひとが、人生という修行でさらに磨かれて抜きん出てくのが内実なんじゃないかとさえ思う。
けど、人間のかわいらしさ、というのは、前者のできてない人間の引き起こす感情の渦から発生するんじゃないかしらん。そして、落語で描かれる笑いは、そんな、いいトシした大人のあれやこれやなのだ。
とはいえ、今回のおっさん版「権助提灯」みたいに、30年も前のことでぐだぐだ言ってる大人同士のあいだを、「まだまだ人間がわかっちゃいない」はずの、若造の熱情が突破口に導く、という事態もあったりして、やっぱり単純に、亀の甲より年の功ってわけにはいかないなあ、と思わされる。
そして、その若者の熱情が飛び火したのか、30年と一夜経って、はじめて、最後に面と向かって素直に恋心を告げるおっさんのかわいらしいこと! こういうことが現実でもあるから、年をとるのはおもしろいのだ。