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霊長類ヒト科アゲアシトリ属ジュウバコツツキ目の妄想多め日録

コスメとリアル

とある美容ライターの第一人者とされる人(以降、御大)の文章が苦手だ。御大の特集が以前にコスメ系雑誌で組まれたときに、「髪を巻くのは取材でパンツスーツを着るのでマニッシュになりすぎないようにバランスを考えて」などということをご自身で書いていた。

そのときに、「美容ライターなら、たとえパンツスーツにひっつめシニヨンでも、肌の質感やメイクで『さすが美容ライターならではの計算しつくされた引き算の艶』とか思わせようとは思わないのか?」と思ったことが、苦手意識をはっきりと自覚した最初だったように思う。

御大は美容ジャーナリストと名乗って(あるいは名乗らされて)いるのだが、その文章はジャーナリスティックな厳密とは程遠い。むしろ、「こんな紹介文書かれちゃって、逆宣伝なのでは?」という記事もしばしば。

ジャーナリストなら、ボディショップフェアトレードはどれくらいフェアなのか? フェアトレード原料と書いていない製品の原料の仕入れ過程は? とかをレポートすべきだと思うんだけど、そんな記事は皆無。各社提灯記事(しかも曖昧模糊としたのとか贔屓の引き倒し多し)と暴論エッセイしか読んだ覚えがありません。

そんな御大の突っ込みどころ満載のテキストを某カード会社の冊子にて発見したので、抜書きしつつ突っ込んでみる。

フランスでは男たちもある種の緊張感を日常的にあまり失わず、だからあまり太らない。男であり、女であり続けようとする意識が、ダイエットにはいちばん効くということなのか?
 加えてフランス人は食事の仕方もひと味違う。フランス料理自体は言うまでもなく高カロリーだが、彼らにとっては食事も感性のエクササイズ。つまりひたすら食事のおいしさを味わうのではなく、むしろ会話を楽しむための刺し身のツマに、おいしい食事があるという考え方。だから彼らは逆にワインとパンとチーズだけでも、食事を楽しんでしまう。たぶん毎日の食事を脂肪に変えない方法は、食べることに集中しない食事なのだ。※強調部分:引用者
御大は、フランス人はあまり太らない、とこのテキストのなかでしきりに言うのですが、いったいその根拠はどこに?

フランス人、太った人いっぱいいるじゃん。御大、映画でしかフランス人見たことないんじゃ…

あと、フランス人はひたすら食事のおいしさを全力で味わいつつ、その上でさらに会話と駆け引きを楽しんでいるのでは? じゃなきゃ、グルマンという単語がフランス語にある意味がわかりません。

 これも余談だけれど、フランス人は、できあいの遊園地やテーマパークのように、感動を用意された場所で遊ぶのが苦手だそうである。何にもない公園や草原で手づくりのランチや食事を持参しての、ピクニックやキャンプのほうがずっと楽しいと感じるらしい。
 確かに映画を比較しても納得がいく。フランス映画に、ゲーム感覚の痛快娯楽映画なんてのはなく、あくまで哲学的でひたすら受け手に考えさせるものばかり。考えることが空腹を満たし、またエネルギーを消費させるのだ。※強調部分:引用者
フランス人はできあいの遊園地やテーマパークが苦手? …えっと、ユーロディズニーランドは? ていうか、その手の遊園地を作る資質に欠けるだけで、あれば貪欲に楽しむのでは?

そして、これには驚いた。

「フランス映画に、ゲーム感覚の痛快娯楽映画なんてのはなく」

え? 続編も作られた『Taxi』は? ジャック・タチルネ・クレマンがコンビを組んだ『左側に気をつけろ』は? 『赤ちゃんの逆襲』『奇人たちの晩餐会』『ルビー&カンタン』は? ハリウッドで監督・主演コンビは続投でリメイクもされた『おかしなおかしな訪問者』は? つうか、ジャン・レノって昔は今の阿部寛ばりのコメディ俳優だったじゃん! あと、リュック・ベッソンのアクション映画は哲学的な映画っていうより、痛快娯楽映画だよなあ。

そしてまた、「考えることが空腹を満たし」と、フランス人太らない説のご開陳。いやむしろ、フランス人のやつらは考えることで空腹が増して、あのボリュームの食事を消費してるんじゃないかと思うのですが。

とまあ、もしかして御大は、おしゃれ&哲学的(ご本人のいうところの)映画の中のフランス&フランス人しかご存じないのでは? と言いたくなる暴論っぷり。一度、御大の考える「俺フランス」を書いて/描いていただきたいものです。