濡れ落ち葉と未来少年コナン
夫の人は小学校高学年のあるとき、テストで満点が取れなかったのをきっかけに学校での勉強が嫌いになり、以降は国語と歴史の授業が特に嫌いでノータッチだったため、日本で生まれ育った日本人で、習字を習っていたこともあるのに、日本語が堪能ではない。その日本語力のなさは、神々しいを「かみがみしい」とか発音してしまうほどだ。そのせいか、日本語の表現で面白い言葉に出会うと、しばらくそれを気に入ってリピートする。
そんな彼のさいきんの流行り言葉は「濡れ落ち葉」である。仕事人間だったのが、定年退職後に趣味もなく友もなく、払っても払っても付いてくる濡れ落ち葉のように、配偶者にくっついている人のことだ。
さて、わたしは不規則な仕事をしており、夫の人がすでに布団に入っている時間に帰ることが多い。とりあえず手を洗ってうがいをしてから、「ただいま」を言いに寝室に行き、ベッドの脇に立ち、あるいはベッドに腰掛けて頭などを撫でてみるのだが、夫の人が起きていると布団から手を出して握手めいたことをすることがある。それが、「濡れ落ち葉」という言葉を覚えてからは、その握手がやけにしつこいのである。布団から両手を出して舟幽霊のごとく縋り付いてきたりもする。「べたぁ~」という擬音付きだったりもする。
「濡れ落ち葉ごっこ、やめて」というと、くすくす笑いながら、「だってさ~、面白いんだもん。こういうの、日本語で『言い得て妙』って言うの?」とか言っているのである。有言も無言もなんでもさっさと計画を立ててちゃっちゃと実行してしまう本人は、絶対に「濡れ落ち葉」にならなそうなこともあって、この表現がおかしくてしかたがないようなのだ。
そんな夫の人は、夜、寝ている間に頭の後ろで腕を組んで、ハックルベリー・フィンか未来少年コナンみたいになる。よくなる。しかしこれはやめていただきたい。なぜかというとわれわれは庶民であり、キングサイズのベッドに寝ているのではないので、片方が寝ながら頭の後ろで腕を組めば、その肘がもう片方の頭に当たるんである(コナンじゃなくてラナだけど、こういう体勢↓なわけです)。
しかし、やめていただきたい、といっても夫の人のこれは、眠りながら無意識にやっているので、どうしようもない。ある意味、意識さえ変わればくっつかなくなる「濡れ落ち葉」よりもやっかいなのだ。