オリオン座δ星から来た女
うちで夫の人と話していると、びっくりするような基本的なことを知らなかったりしてびっくりすることがある。びっくりする、というのはいろんなことを知っていて、教わることが多いので、その落差から。
ところで夫の人は時々こっちが襟を正す気分になるほど善良で真っ当な人間だ。こういうたちの人間を、チベット仏教では前世も人間界で徳を積んできた、と考える。歴代ダライ・ラマ法王などはそれに加え、教えていないはずのこの世のことを幼いうちから知っていたり、見分けたりするという。十何世にも亘り、チベットで転生を繰り返していることからだろう。
そういうことから、夫の人の地球、そしておもに日本のことについての知識の欠如について考えてみた。これは前世までは地球ではない天体で、知的生命体として生活していた精神体が、なにかのはずみで今生は地球の日本の人間に転生したのではないか?
と、いう与太話を整体にかかっているときにしたところ、面白半分に雑誌「ムー」を読んでいるという整体の先生が、とつぜん爆笑した。
「そういうお客さん、うちにいますよ」
というのだ。どういうことかと聞いてみると、かつてはオリオン座δ星(デルタ)・固有名ミンタカ、つまりオリオンの三ツ星の向かって左側の星に暮らしていたのが、二世代前から地球で転生するようになった、というお客さんがいて、「いつか帰りたいわあ」とおっしゃるそうなのである。
いやしかし、それはいくつかの点で無理がある。
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まず、ミンタカは恒星である。恒星というのは太陽と同じく、核融合を起こしている。その熱エネルギーが光となり、地球から見えているのだ。
たいして地球は惑星である。惑星や、地球の衛星である月も光ることは光るが、これは恒星である太陽の光を反射して光っているのであって、核融合を起こしているのではない。起こしていたら、人間を含む生物は住めない。
そして、恒星は核融合が終わっても、惑星にはならない。恒星の核融合が終わるとき、それは恒星の死なのだ(なお、ミンタカは689光年もの遠くにあるので、核融合が終わり、その光が失われても、地球からはすぐに光って見えなくなるわけではない)。
なので、そのミンタカから来たというお客さんは、ミンタカそのものではなく、ミンタカの惑星である生命体が居住可能な星に前世があるのではないだろうか。
すると、整体の先生は「おもしろい! 今度、『帰っても住めませんよ?』って言ってみようかな~。アイデンティティー崩壊しちゃうかなー」と言って笑っていた。そして、宇宙には、自力で光っているわけではないから、地球上で肉眼から見ているのでは見えない惑星や衛星がたくさんあるのでは、という話になり「宇宙、思っているより密度高い?」という話になって終わったのであった。
大人も眠れないほど面白い宇宙の雑学?17億5000万年後の地球の未来は?!?
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なお、帰宅して夫の人にこの話をしたところ、「その人に三ツ星の隣の星との距離とか聞いてみたいな~。きっとちょっとお隣程度にしか思ってないんだろうな~」とニヤニヤしていた。ちなみに、オリオンの三ツ星は地球からは並んでいるように見えるけれども、実はそれぞれ相当に離れている。ミンタカは地球から689光年離れているが、真ん中のε星(イプシロン)・固有名アルニラムは1977光年、向かって右側のζ星(ゼータ)・固有名アルニタクは736光年離れているのだ。