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映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』

世間はディズニーの『アラジン』流行りのなか、公開時間も限られてきたハリウッド製ゴジラを見てきました。そのうえでこの映画、客電がつくまで絶対に帰らないことを、まずお勧めしておきます。

 

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とにかく素晴らしかった! 芹沢博士は現代ならこうであろうと思われる振る舞いだし、ゴジラがただデカいだけのトカゲみたいにシュッとしてないのもいいし、古代の神話や伝説に関連付けて、怪獣たちの闘いが神々の闘いとして描かれているのもいい。「怪獣たちの迫力ある姿や戦いに比べると、人間側のドラマや兵器描写は少ない気もする」との批評もあるようですが……

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人間ドラマ少なめ? いやいや、ギリシャ神話の映画で「神々の闘いばっかりで人間ドラマ少なめ」って言わないよね? そう思わせるほど、怪獣たちが神々しいのです。ヒンドゥー教シヴァ神が破壊と再生両方を担う神であるのと同様に、圧倒的なパワーや美で、その神々しさを見せつけます。

一方、最初のシーンでのゴジラの出現は明らかに9.11テロを想起させます。一瞬、またかよ、と思ったけれど、だからこそ中盤の芹沢博士のセリフ、「彼らと共存するか、敵となるかは我々の判断にかかっている」(うろ覚え)と、世界各地で怪獣が生まれて脅威になる状況(もちろん世界各地でのテロの直喩でしょう)が効いてくる仕掛けに唸らされました。

 

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そして音楽と音がまたよかった。オリジナルのフレーズをそのまま、あるいは展開して使っているのがいい。エンドロールではモスラのテーマから発展させたそれが素晴らしいオーケストレーションで流れますが、さらにそのあとの曲の演奏も素晴らしい。映画館で見た予告では「オーヴァー・ザ・レインボウ」やドビュッシーの「月光」が使われていたので、「ええー、自前の音楽作らないの?」と思っていましたが、すっかり騙されました!

 

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ところで悪の首領が暗黒版柘植(機動警察パトレイバー 2 the Movie)っぽいですね。あの人絶対、過去にあのママと恋人同士だったよね? それでもって首領の思想が過激すぎて一旦は別の道に行ったママの、子どもを亡くした弱みに付け込んだって寸法? あとママ自身も、あれはジブリの『風立ちぬ』の二郎さんと同種のヤバい人だよね……。

 

やる側とやられる側は常に地続き

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2015年に出版された『サリン それぞれの証』を読んだ。著者は本の雑誌社と縁の深い木村晋介椎名誠の「東ケト会」シリーズを読んでいた者にはキムラ弁護士として知られる。

 

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この本を通勤中の地下鉄で読んでいると、ぞわぞわと怖くなってくる。というのは無差別テロをやる側やられる側に明確な差などなく常に地続きだと、様々な立場からの証言に思い知らされるからだ。

ただ、オウムの場合、高学歴の幹部は素直な優等生という性格が取り込まれる一因だったのではと思えてならない。そうならないためには仏陀の「師の言葉であっても検証に検証を重ねなさい」を実施し続けるしかないのでは。キムラ弁護士が、時には自らも体験して、オウム信者が取り込まれた要因の神秘体験を検証するくだりに、そう思った。

そもそも麻原の「超能力者を目差す者がまず最初にクリアーしなければならないのが、クンダリニー(霊的エネルギー)の覚醒である」をおかしいと思わない点で素直すぎる。超能力者はそのまま覚者を指すわけではないし、神秘体験は修行の副産物にしかすぎないからだ。

わたしが高校の頃、実家にオウム真理教の前身・オウム神仙の会の勧誘で、地元のエリート大の女子学生が勧誘に来たことがある。まだ痩せていた麻原の空中浮遊の写真の載ったチラシを見せて自慢げであった。家の宗教はキリスト教ながら、宗教オタクでチベット仏教ファンの身としては、カチンと来た。

チベット密教では空中浮遊というのは修行の副産物でしかない。あなた方の教祖が空中浮遊した修行で救われた衆生はあったのか」

気付けば問い詰めていた。女子学生の顔からは笑みが消え、恨みが目に宿った。当時、地方の高校生が独自に比較宗教研究をして理解していたことを、彼らは理解していなかった。恨むならそんな自分を恨み省察すべきだった。

宗教の修行での神秘体験は、それによって自分がそれまでの思考の枠を超えたという分水嶺でしかない。超えることでより大きな視座で衆生のために祈ることができるようになる。同時に、自身も常に衆生の中にいる、超越していないという自覚を失わないでいることが必要なのだが、オウムにはそれがない。

何のために、誰のために修行するのか。それについて自分自身と徹底的に対話しなければ、どんな神秘体験も宗教的な意味をなさない。

仏教だけでなく、キリスト教も聖書でこう語っている。

「たとえ、人々の異言、天使たちの異言を語ろうとも、愛がなければ、わたしは騒がしい銅鑼、やかましいシンバル。たとえ、預言する賜物を持ち、あらゆる神秘とあらゆる知識に通じていようとも、たとえ、山を動かすほどの完全な信仰を持っていようとも、愛がなければ、無に等しい。全財産を貧しい人々のために使い尽くそうとも、誇ろうとしてわが身を死に引き渡そうとも、愛がなければ、わたしに何の益もない。」

マシュー・ボーンの『スリーピング・ビューティー』

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喉を悪くしてバレエのレッスンは諦め、薬湯を飲みつつ、BDを買ったはいいけど見てなかったマシュー・ボーンのスリーピング・ビューティーとそのメイキングを鑑賞。
あらすじを読んで、メリーベルを身分違いのエドガーが迎えにくる話かと思いきや、全然違いました! 二転三転してほんとにハッピーエンドになるの? とハラハラ。

 

『ポーの一族 プレミアムエディション』 (下巻) (コミックス単行本)

 

姫が長くつ下のピッピのようにやんちゃすぎてどうしよう? って感じで、原作のバレエやディズニーの眠り姫のイメージ全くなし。もともと魔女が作り出すか産み出すかして王家に与えた娘だと思えば当たり前なのか。

 

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そうなると魔女の息子との血の婚姻は近親相姦になってしまうのでは? というか、あれはほんとに花嫁にするつもりなのか、生贄にするつもりなのか、どっちだったのだろう。招待客の反応は生贄のおこぼれ目当てに見えたけど。あと、花嫁の無表情が『カリオストロの城』の結婚式シーンを思い出させる。

 

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けど、姫が魔女の産んだ娘なら、観客は元気な猟番の血を入れた魔女の代替わりを見届けたということなのでは……。姫だけ顔が変わらないのも、彼女が魔女の正統な後継者だった、ということなのかも。

 

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衣装や美術も相変わらず一部の隙もなく世界観を表してして素晴らしい。赤ちゃん人形も、白人の赤ちゃんの気味悪さがちゃんとある。サモワールでお茶を飲んでいたり、王妃役のファッションがロシアっぽかったりは何を表してるんだろう? 百年経つまで猟番はどうやって生きてきたの? とかは気になるところ。

 

メイキングは輸入盤のため字幕なし。拾い読みならぬ拾い聞きしたなかで興味深かかったのは、マシュー・ボーンが音楽について「ディズニーのメアリー・ポピンズのチムチムチェリーみたいな効果を発揮させたい」というようなことを言っていたこと。あと録音環境や練習スタジオが古い建物の中をリノベーションしたところで行われていたのが素敵。そこでマシュー・ボーンが振り付けを演出していくのもまた素敵。あ、あのベルトコンベアはこの幅で設置してあったのか! とかそういう舞台装置への謎解きも楽しい。

あと、映像でも「ドリアン・グレイの肖像」とか、日本未公開の男パドドゥがいくつもあるみたいで、腐女子マーケット目当てに興行したらいいのにと思ったり。

 

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映画『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』@新宿武蔵野館

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平日でサービスデーでもないのに、新宿武蔵野館はけっこう入ってました。バレエファンではない、ソ連クラスタというか、ロシア語クラスタのご老人がちらほらいたのが興味深かったです。「久しぶりにロシア語聞いたよ~」なんていう会話をしているおじいさまが、もう一人のお連れさまには英語で話してたり。

わたしにとってはバレエ映画というより、懐かしのジョン・ル・カレあたりの東西冷戦スパイもののような緊迫感。ファッションの時代考証はもちろん、空港ロビーの椅子、パリの街を走るクラシックな車たちも「あの時代」を再現しています。

わかりにくいと批評されていた時間の交錯は、ぜんぜんわかりにくくありませんでした。ソ連という国家に縛られていなくても、人生の重要な転機には、あんなふうに過去の転機が思い出されるのはふつうのことだと思うし。時間の交錯ということでは、エンドロールで実際のヌレエフが海賊のアリを踊る映像のあとに、そのシーンの音楽がかかったりと時間差で揺さぶられました。

 

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ルドルフ・ヌレエフの亡命シーンは、もうとにかく怖すぎました。フランス側も手慣れてるのがまた……。中学くらいまでソ連や中国などの共産圏の大国に抱いていた恐怖のイメージがまざまざと蘇ります。

というのはわたしの祖父は国立大で化石を掘る仕事をしていた関係で、国交正常化後からすぐ中国やソ連含む世界中の大学との共同発掘に出かけていたのですが、中国とソ連の滞在中の自由のなさ(と、一般人民のやる気のなさ)について、幼少時、祖父がほかの大人に話すのを繰り返し聞いていたのです。「ありゃあ、うっかり化石のかけらでも空港の荷物チェックで見つかったら、帰っちゃこられないよ」という冗談めかした言葉と共に。

 

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そんなわけで亡命シーン後は緊張と弛緩で涙。ここではまだ感動する余裕はありません。エンドロールで実際のヌレエフがバレエ『海賊』のアリを踊った映像のあとに、そのシーンの音楽がかかったりと時間差で揺さぶられたあたりで、急に込み上げるものが。でも自分が何に感動しているのか、ぜんぜん言葉が見つからない。終映後、入ったトイレ内に貼ってある森下洋子さんのコメントが、その言葉にできない自分の気持ちに6割くらいフィットしていて、しばらく個室内で泣いてしまいました。

ほかにも、冒頭からキーロフ(今のマリインスキー )バレエ団がパリに到着してヌレエフが一人で(でも離れたテーブルで監視付きで)カフェでの時間を過ごすあたりまでで彼が漂泊する魂を持って生まれてきたことがはっきり示されるところや、少数民族出身で不利益を被っていることをうかがわせるところも中国とチベットを思い出してつらかったり(なんだかんだ言ってロシアのバレエはいわゆるロシア人的な容貌が重視される世界だし)、バレエ団に付いてきたKGBの脅しの言葉から現在のチベット人の状況が思い出されたりとか、嗚咽の理由はたぶんいろいろ。

そんなわけで、動揺し過ぎて森下洋子さんのコメントが載っているだろうパンフレットを買わずに出たのもあり、また渋谷あたりで見直そうと思います。ピエール・ラコットの頼れる兄貴っぷりをもう一度見たいし、今度は少しは平静な気持ちで見られると思うから。

 

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罪深き不正:神学者が神学者とその論文を捏造

神学者神学者とその論文を捏造」って、な…… 何を言っているのかわからねーと思うが、おれも 何を読まされたのかわからなかった……。

神学者カール・レーフラーは、

存・在・し・な・い・ッ……!!!

 

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いや、東洋英和の院長の研究不正の話なんですけどね。調査PDFが東洋英和女学院大学のサイトに上がっているのですよ。それを見るといろいろな疑問が湧いてくるのです。調査PDF自体は、多少論文を書くことを知っていたら、かなり興味深く読めるものです。不謹慎だけど、推理小説のように面白い。

捏造に関しては昨秋にご本人が「資料は捏造指摘者が想定する人物とは異なる人物から入手した。その人物の了解が得られたので公表したい」とか宣ってたので、埋もれた資料や論文が発見されて終わりになればいいですね、と思っていたけど、タイプライターで荒っぽく捏造のうえ、盗用までとは。

 

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それにしても、いくつかの論文を基に捏造した論文タイトル「カール・バルトの神学にとってのニーチェ」をなぜか失念して、自分の論文中では「今日の神学にとってのニーチェ」としてしまったのはなぜなのか。

というかわたしもドイツ語には明るくないのですが、「カール・バルトの神学にとってのニーチェ」なら「Nietzsche fuer Karl Barths Theologie 2」ではなく「Nietzsche für die Theologie von Karl Barth 2」とかになるのでは? およそドイツ人の書くドイツ語ではないというか、ドイツ語を知ってる日本人の書き方っぽいように見えるし、論文、それも神学論文のタイトルにしてはラフすぎるような。

あと、Karl Barth に「s」が付いているのもよくわからない。英語の「's」じゃあるまいし。日本語名で「2」が抜けているのも不明。待てよ、じゃあ「1」も作成してたのだろうか。「die」が抜けてるのは、うーん、ぎりぎりアリかな?

 

そして盗用するのに捏造論文の元ネタの一つの論文の邦訳書から引用してしまっているのも詰めが甘いなと思う。まあ論旨が破綻しないようにするとすれば、そうせざるを得なかったのだろうけど。

でも、調査委員会にドイツ語のウムラウトが打ち出せないタイプライターで捏造した当該論文を提出したのも、家計簿と偽って科学アカデミー分科会の手書き議事録を提出したのも、悪あがきにしても不可解。そんなの調査委員会にドイツ語読める同業者が含まれるだろうし、すぐバレるだろと思うのだが。

そもそもキリスト教神学者として、神以外のものが人(存在しない神学者)を作ってはいけない、とは思わなかったのだろうか、というのは冗談だけど、東洋英和のトップである院長という立場に50代半ばで昇りつめてるのに、こんな罪深い捏造をしなければならなかったのは、なぜなんだろう。早急にわかりやすい賞を取るような業績が必要な、なにか理由でもあったのだろうか。

 

それにしても研究不正の何が罪深いかって、研究不正した人物の過去の業績も調査する必要があったりして、当時は学生だったような無関係な研究者が駆り出されたりとかすると、その間、その分野の研究がstuckするんですよ。つまり関連学会の研究の進化と深化を止めてしまうんですよ。キリスト教神学ファンとしてふざけんなって気持ちです。

肉好き&ヴェジタリアン夫婦のなれそめは?

今月は激務、というか今年に入ってから激務で、チベット正月にチベット料理店にも行けてなかったのですが、今日の休みは時間が取れて、チベット人書家と夫の人とチベット料理店タシデレで晩ごはん。二人は英語で話すので、わたしはたぶん話してる内容の1/2〜1/3くらいしか理解できてない。そもそも英語に慣れてないので、食べ始めると聞き取りが疎かになるし。

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が、莫高窟で発見されたテルマ(埋蔵経)や壁画の話になるとわかる。特に興味のある内容だからか? そして莫高窟のお宝が、死海文書みたいに偶然発見された話は、とても面白かった!莫高窟の壁画や仏像については、ぜひ「dunhuang caves silk road」でグーグル画像検索などしてみてください。

しかし、その話の発端になった、「なぜお肉が欠かせない系のチベット人書家がヴェジタリアンと結婚したのか? 奥さんは最初からヴェジタリアンだったのか?」などは謎のまま。ゴールデンウィーク中にお宅訪問するので、そのときに聞いてみたい。なお、なれそめから莫高窟の話の流れはこういう感じでした。

 

・お肉必須のチベット人書家がなぜヴェジタリアンの妻と結婚したの?

莫高窟から発見されたお経を解読して復刻するプロジェクトで、ぼくが筆写する仕事をしていて、のちの妻(たぶんカナダ人)がそれを英訳する仕事をしていたんだよ。

・で、その莫高窟でお経や壁画が発見された経緯が面白くてね、旅の商人が莫高窟の洞穴の一つで休んで煙草を吸ってて、吸い殻を壁の穴に押し付けたらそのまま中に落ちて行っちゃったんだ。そこを掘ったらお経が出てきた。

・そこから英米仏日中の図書館や研究機関による大々的なお経の解読作業が始まったんだけど、なにせ古いから書体が現代チベット語と違う(たとえばフランス語のアクサン・テギュのところがアクサン・グラーヴになっているような感じみたい)。そんなわけで現代のお経やテキストと突き合わせて4年がかりのプロジェクトになったんだ。

ちなみに莫高窟敦煌にあるわけですが、敦煌をdunhuangと読むのを今回、この話で初めて知りました。夫の人は「じゃあ君は現代チベット文化の生き字引なんじゃんか!」といたく感激していました。チベット人書家の彼については↓こちらを。

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今年もチベットピースマーチを行いました

いつも渋谷や六本木、新宿だったのですが(ピースマーチ前に抗議の声を届ける中国大使館が麻布税務署近くなのもあり)、今年は三月九日に浅草で行いました。雷門前を通るコースでした。

 まずはピースマーチ前の中国大使館前抗議の様子から。

https://twitter.com/SFTJapan/status/1104564760392040449

 

 

 

 

 

浅草なので、海外からとおぼしき観光客の方々が写真や動画を撮っていました。ぜひ拡散していただきたい!

 

NHKの取材により、BS1の国際報道2019で五分ほど流れた「“動乱”60年 日本で暮らすチベットの人たちの思い」が動画で見られます。

www6.nhk.or.jp

NHKはほかにもチベットの宗教都市、ラルン・ガルがいまどうなっているのかも取材されています。四月五日まで、以下のサイトで課金すれば見られます。

この番組についてのご注意
許諾が得られなかったため、一部映像を編集して配信します。」

が気になりますが……。

 

www.nhk-ondemand.jp

なお、今回のチベット民族蜂起60年について、くわしくは以下のリンク先をお読みください。