読んだり食べたり書き付けたり

霊長類ヒト科アゲアシトリ属ジュウバコツツキ目の妄想多め日録

オレンジピールが好きなわけ

ひとの食の嗜好は良くも悪くも幼少期の体験に根ざしてしまう、というのは紅茶に浸すマドレーヌの例から『美味しんぼ』まで、論われることグラニュー糖の粒のごとしなのだが、わたしの場合、現実に食べたものと、絵本や児童文学の中の世界で「食べてるつもりで」読んだものが入り混じっているのがタチが悪い。それはつまり、幼少期の思い出の中では実在する「思い出の味」が、現実には存在しない可能性があり、ということはその「思い出の味」を食べたいと思っても叶えられないという可能性もあるからだ。

しかも、母にしてからが「大草原の小さな家」シリーズで読んだ「木桶に積もった雪の上に楓糖蜜を落として作ったキャンディー」を、雪の多い地方に移り住んだ途端、子どもたちと実践してしまうようなタチだったので、わたしのごくごく幼少期の食の思い出には、読んでいただけで実際にホンモノは食べていない味の思い出が、多分に含まれているにちがいないと思う。

ちなみに、母が真似た楓糖蜜キャンディーは、湯煎で緩くした水飴に自家製ミントシロップを混ぜたものを、大鍋に入れた雪の上に落として固めたものだった。メープルシロップが手に入らない田舎というわけではなかったので、おそらくは積もった雪を見て、発作的に「やってみよう!」と思いついたのであろう。

さて、前置きが長くなったが、画像リンクを貼った『エルマーとりゅう』では、オレンジを分け合って、りゅう(竜)が皮を、エルマーが中身を食べるシーンがある。そのシーンを読んだのが先か、それともオレンジピールを食べたのが先かはまったく記憶にないのだが、わたしはいまだにこの本の、このシーンを読むと、りゅうの食べているオレンジの皮が、オレンジピールのように美味なものに思えてしかたがない。

ちなみにオレンジピールに関しては、はじめて食べたそれが、チョコレートがけのものだったのか、ケーキに入っていたダイスカットのものかさえも覚えていない。もちろん、それがなぜこの本のオレンジの皮に結びついたのかも。