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映画『グッバイ・クリストファー・ロビン』(ネット視聴)

ネット視聴で新年初映画。A.A.ミルンの『クマのプーさん』原作ファンとしては見るべき作品。画面は衣装の生地に至るまで考証が尽くしてあるのだろうなと感じられ*1、気になるところもなくとても美しいのですが、その反面、クリストファーの生育環境の残酷さが突き刺さってきます。

 

クマのプーさんと魔法の森

クマのプーさんと魔法の森

 


内容はクリストファーの書いた『クマのプーさんと魔法の森』を彷彿とさせながらも、映画の主人公は父ミルン。サセックスに引っ越してくるクリストファーが「新しいおうちにパパとママも一緒に住むとは思わなかったの」というあたりから不吉な予感が。というかわたし自身、クリストファーのその後を知っているのでただ楽しい鑑賞体験というわけにはいきません。

ラストシーンも、父ミルンは従軍から帰った息子に幼いクリストファー・ロビンを重ね合わせて終わるのですが、「え、じゃあ結局、『クリストファー・ロビン』じゃなくなった息子には興味なしってこと?」と、実に複雑な気持ちになりました。実際には映画で描かれているような、クリストファーによる父の作品の相対化と父との和解は父ミルンの生前にはなく、関係は悪化するばかりだったわけだし。

 

クリストファー・ロビンの本屋

クリストファー・ロビンの本屋

 


それでも映画体験としては良いものでした。不満としては、クリストファーの母の描き方と、イギリス英語じゃないこと。プーさんのキャラクター造形はほとんど母ミルンとクリストファーの間の遊びによるもので、父ミルンはその観察者にして筆記者だったのでは、という説もあるほどなのに、クリストファーを育児放棄している社交界好きの派手好きな面を前面に出すのはどうかと思うのです。

 

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ところで、完全にフィクションのディズニーの『プーと大人になった僕*2が映画館公開されたのに、こちらが映画館では公開されないとなると、実際のクリストファー・ロビンの人生が今後、誤解されていきそうな不安を感じています。

クリストファー自身の自叙伝は、おそらく少し大きな図書館には収蔵されていると思うので、ぜひ読んでいただければと思います。

 

お題「最近見た映画」

*1:父ミルンのスーツや母ミルンのドレスのみならず、子ども服の生地も手が込んでいたりして、植民地をかかえていた第二次大戦前のイギリスのミドルクラスの生活はこれくらい豊かだったのだろうなと思えます。夫の人は「この貴族め!」と言っていましたが、それくらい豊か。

*2:実際にはどんな仕事も長続きしなかったクリストファーが、鞄会社のそこそこ有能リーマンだったり、娘が健常だったり、ある意味主人公はクリストファーじゃなく、『クマのプーさん』を幼少期に読んでいた一般人でも置き換え可能な内容!