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『中村屋のボース―インド独立運動と近代日本のアジア主義』@中島岳志


インド独立運動のために「お尋ね者」として日本に亡命、終生日本からインド独立運動をし続けたものの、日本で娶った妻は早世、本人もインド独立を目にすることなく没した悲運の男の伝記である。


それと同時に「アジア主義」というスローガンを状況に応じて隠れ蓑に行動する戦前日本の姿を活写した本でもある。「アジア主義」とは異なるが、やはり戦前の日本で、あるスローガンが如何に恣意的に使用されたかについて考えている身としては、たいへん興味深かった。とはいえ多義的な解釈の出来るスローガンを掲げて曖昧なままに物事を運んでしまうというやり口は、戦後日本もあまり変わらないのではないかと思える。


また、爆弾テロなどの暴力的な植民地政策転覆運動とは対極にあるものの、現在自分もかかわるフリー・チベット運動のいろいろを重ね合わせてしまう部分も多く、重い読後感。


しかし、このようにして独立を勝ち取ったインドだからこそ、チベット難民に対してのあの厚遇なのだということが、インド独立運動の流れをなぞることでわかってきた気がする。チベットの人たちが日本人に期待をかける理由も。


不満といえば、新宿中村屋の娘とのエピソードをもう少し質量ともに読みたかったこと。タイトルが『中村屋のボース』であり、中村屋のカリーのコピーが「恋と革命の味」なのだから、やはりそこは期待してしまうところではないかしら。